仏間で「カンカン娘」を合唱して
スガモプリズン最後の処刑となった石垣島事件7人の執行は、2回に分けて行われた。石垣島警備隊司令の井上乙彦大佐、副長の井上勝太郎大尉、幕田稔大尉、田口泰正少尉の4人が1回目、そして2回目が、榎本宗応中尉、成迫忠邦上等兵曹、藤中松雄一等兵曹(階級は事件当時)の3人だった。藤中松雄ら3人が仏間で執行を待つ様子が、本に記されていた。
<わがいのち果てる日に 田嶋隆純>
(お勤めの)その後で、お供物の葡萄酒とビスケットを薦めるのだが、皆喜んで手錠の手を差し出し、片手にコップを握る。しかし、この葡萄酒は人数の多少にかかわらず一本きりしかないので、多いときには分配に気を配る要があった。コップはいつも二個、その一個は私の分として置かれてあって、一度皆さんからどうしてもと薦められ、私も苦しみを逃れたくわずかに口にしたことがあったが、元来良い葡萄酒であったせいか、いつも皆気持ちよく酔いが回っていたようである。
石垣島関係者のときなども第二回目に出発する組は少し時間の余裕があったので、榎本氏が、最後に作った短歌だとて小さな紙片を手に朗詠すると、そばの壁に真っ赤な顔で寄りかかっていた成迫氏が、やがて煙草を放して「カンカン娘」を唄い出す。他の者も上機嫌でそれに合唱するといった、誠に朗らかな情景が見られた。
















