教誨師が記した“処刑の立ち会い”

藤中松雄の“22枚目”の遺書

田嶋隆純教誨師の著書、「わがいのち果てる日に」(初版1953年・復刊2021年講談社エディトリアル)には、教誨師の眼から捉えた処刑の直前の様子が記録されている。

<わがいのち果てる日に 田嶋隆純>
遂に処刑の時刻、十二時近くになると、所長、副官はじめ将校、下士官ら十数名がやってくる。「お勤めには何分かかるか?」と問われる。「約二十分かかる」というと、時計を見て、全員ドヤドヤと各独房に分かれて入ってゆく。やがて手錠に警(いまし)められた人達がドタ靴をバタバタ床に鳴らしながら、衛兵に付き添われて仏間に入ってくる。

この際、米兵四、五人だけで仏間の入り口付近で中に立つだけである。仏間としては、先の宣告場の中にある六畳ほどの副室が充てられていた。正面に置かれた仏様は、第五棟の一階で拝みなれた阿弥陀如来で、厨子のまま移されたものである。まず塗香(ずこう)を手に塗り身体を清めた後、私が先頭でお勤めをするが、本人の宗旨によって般若心経、重誓偈、弥陀名号その場合場合に応じてお勤めをした。