SNS等への信頼や争点への関心は党首人気にどう関わっている?
次に、これらの項目がどのように党首の好感度に関わっているのかを確認した結果を、表2に示す。本調査では各党首への好感度を、「嫌い」を0度、「好き」を100度とする「感情温度計」を用いて測定している。その項目においては、回答者に各党首への好感度を0~100度の範囲で答えてもらった。


これによると、男性や若者層の好感度が高いのは玉木氏・神谷氏で、石破氏(調査当時自民党党首)・野田氏のような大政党の党首は高齢層で好感度が高かった。概ね、自身を保守派と回答した人は保守政党の党首を、自身を革新派と答えた人は革新政党の党首を好む傾向にあった。
争点については、所得格差や男女間格差の問題を重視する人は革新政党の党首に、安全保障や外国人受け入れ問題を重視する人は保守政党の党首に好感を抱いており、こうした争点が現在の左右対立軸に関係していることがうかがわれた。他方でSNSの政治情報を信頼する人は、玉木氏・山本氏・神谷氏・百田氏への好感度が高く、テレビの政治情報を信頼する人がそれ以外の党首について好感を持っていた。
ちなみに複数の項目の影響を考慮した重回帰分析という統計分析法を使った場合でも、若年層や保守派、安全保障や外国人受け入れ問題を重視する人でSNS信頼度が高いという結果となった。
また党首好感度に関する重回帰分析では、SNS信頼度は比較的新しい/小さい政党の党首好感度と結びついていた。これらのことは、SNS信頼度は日本社会に対する外的・将来的リスクを感じている人において高く、かつ新しいリーダーへの期待に結びついていることを示唆していると考えられる。
もちろん、このような結果は項目間の「相関関係」を表しているだけで、何が原因・結果なのかという「因果関係」を突き止めているものではない。例えば「SNSを信頼するから特定の党首を支持するようになる」と結論付けられるものではなく、「SNSを信頼している人が〇〇党首を支持している」ということを示すに過ぎない。
しかしこの結果は、人々の各種メディア信頼と政治的対立軸とがリンクしていることは示唆する。SNSは現状、特定の属性や争点にマッチした場合に政治的リーダーの人気に繋がっている。また最近のマスメディア不信の背景には、政治的・社会的に根深い要因があると考えるべきであろう。
注:本稿で使用した調査データは、2025年度~2028年度 文部科学省科学研究費補助金(基盤研究A:25H00533)「大規模政治意識調査『JESⅧ』による現代民主主義体制の理解・改善・課題解決」に基づき取得された。当該プロジェクトや調査に関係された方々に深く感謝する。匿名のインターネット調査で、47都道府県毎に回答者の年代・性別・居住地の都市規模の分布が国勢調査のそれに沿うように回収しており、総回答者数は9989名である。
<執筆者略歴>
谷口尚子(たにぐち・なおこ)
慶應義塾大学教授。専門は政治過程論、政治行動論。
慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学、博士(法学)。
東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授等を経て現職。日本政治学会・日本選挙学会・公共選択学会各理事等を務めた。
著書に『現代日本の投票行動』慶應義塾大学出版会(2005年)、論文に谷口尚子, クリス・ウィンクラー.2020.「世界の中の日本の政党位置―政党の選挙公約に見る左右軸の国際比較研究」『年報政治学』71(1):128-151, Winkler, Christian G. and Naoko Taniguchi. 2022. Only Right Makes Might? Center-Right Policy Competition Among Major Japanese Parties After Electoral Reform, Journal of East Asian Studies 22(3):503-523等。
【調査情報デジタル】
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