心と体に刻まれた傷、今も続く影響

日常を奪われた影響は、心と体、そして家族関係にも暗い影を落とした。

達子さんは、事件直後からメニエール病を再発。6年が経った今も、耳鳴りが止むことはない。

渡辺達子さん
「ご存知の方も多いと思いますけど、耳鳴りは厄介ですね。耳鳴りだけはあれから1回も鳴り止んだことがないですよね」

達子さんと夫の間には、時折、摩擦が生じるようになった。

渡辺達子さん
「夫も、私も、どっちが悪いとかじゃなくて、きつめに言ったら、もう喧嘩になりそうみたいな雰囲気になることが何回かありましたね。人様から聞いたことあったんですけど、『これがそれか』っていうふうに思いましたよね」

兄の勇さんは当初、カウンセリングを断っていた。

渡辺勇さん
「理由は自分が崩れていくのが怖かったというか認めたくなかったんですね。みんなしんどい状態になってるので、僕はちょっと凛としてみようと思っていたという感じですね」

だが、勇さんの体は悲鳴をあげていた。37度5分以上の熱が続く。

渡辺勇さん
「コロナが来たときの流れもあって、人と出会うこともできなくなって。子どもが1歳、身重の妻がいる、70代の両親は隣にいるみたいな、そんな状況でまた心が潰されそうになりました」

渡辺勇さん
「いろいろわらをもすがる思いで心療内科に行ったりとか、カウンセラーさんもお願いして。精神的なショックがあると、体温が上がることがあるっていうことを教えていただきました。それを聞いた瞬間、熱下がったんですね。心が体に与える影響というものが、多大なものなんだなということを、そのときに感じました」

過酷な現実に直面した家族。渡辺さん一家は、「家族思い」だった美希子さんが突然命を奪われた、その理不尽さとどう向き合ったのか。そして、裁判で聞いた加害者の言葉とは——。【後編】では、家族の葛藤と、社会への「願い」を詳報する。