2019年7月、36人の尊い命が奪われた京都アニメーション放火殺人事件。
犠牲者の1人、渡辺美希子さん(当時35)の母・達子さん(75)と兄・渡辺勇さん(46)が、講演でその経験と想いを語った。
「『隠さなあかん』と思ったんですよ」
変わり果てた娘と対面した時のことを、母・達子さんはこう振り返る。娘の尊厳を守らなければいけないという、母親としての悲痛な思いだった。家族の日常が突然奪われたあの日から、残された家族は何に直面し、どのような現実を突きつけられたのかーー。
(「全国犯罪被害者支援フォーラム2025」より)
「おかあさん、エラいことになってる」
2019年7月18日。日常は一瞬にして崩れ去った。
渡辺達子さん
「事件のあった日ですけれども、京都アニメーションの社屋が燃えてるというニュースがテレビの中で報道されていると。この人(勇さん)のお嫁さんですよね。『おかあさんエラいことになってる』って、それで知ったんです」

娘の美希子さんの携帯電話に何度かけても、繋がらない。居ても立ってもいられず、達子さんは家族のLINEグループに「京都に行きたい」と書き込んだ。
渡辺達子さん
「お母さんはもう行きたいって。とりあえず様子を見に、京都に行きたいって(LINEに)流したら、上の娘から連絡がきて、『お母さんのことやから状況わからなくても、とりあえず行きたいって叫び出すやろうと思った。区切りのいいとこまで仕事を片付けて、もうちょっとしたら家帰ってあげるから。お母さん1人で行くのは危険やから待ってなさい』って。そう言われて、上の娘の一声で家で待ってたんですよね」

気が動転したまま、達子さんは美希子さんの姉と2人で京都へ向かった。
渡辺達子さん
「電車の中で京都のどこ行くんや、という話になって。現場は消防車もいっぱい来てるみたいやし、邪魔になるだけやろうし。会社行こうかという話になって、京アニの本社に行きました。電車の中で、どういう可能性があるかなって、いらん想像して思わず口から出て、娘に『お母さんいらんこと言わないの』って怒られてしまいました」

京都アニメーションの本社に着き、扉を叩く。
渡辺達子さん
「会社の前まで行ってトントンってして『みっこの母と姉ですわ』と言ったら、『待ってください』って。開けてくださった途端に中から聞こえてきたのが、嗚咽ですよね。はっきり泣いている。それも1人じゃなくて何人か泣いているのはわかったので、電車の中でいらんこと言った一番悪いケースなのかもしれないと思いました」
最悪の事態が頭をよぎる。しばらくして、社長が戻ってきた。
渡辺達子さん
「社長は現場におられたみたいで、だいぶ経ってから帰ってこられた。私と娘がいる部屋まで上がってこられて、無言で座られて。娘は気丈にも聞いたんですよね。『病院に行ってる人の名前は全部わかってますか?』って。で、『わかってる』とおっしゃった。『みっこはその中に名前ありますか』って聞いたら、『いない』という動作をなさっただけでした」
病院に運ばれていない。そのことが厳しい現実を物語っていた。














