「あんたは一人前じゃない」息子いない母がかけられた言葉

国防婦人会の活動に積極的に参加していた梅本さんの母・いとのさんだったが、その立場は決して“盤石”ではなかった。
ある日、婦人会の活動から帰ってきた母が、いつもとは違う暗い表情で漏らした言葉を、梅本さんは今も忘れられない。
「男の子がないばっかりに、“一人前でない”と。(子どもを)兵隊に出していないから国のお役に立っていない。どんな話をしても、“あんたは一人前でない”と(母は)言われてね」
梅本さんの家族は、姉妹3人と両親。息子2人は幼いころに病気で亡くなり、梅本さんの父親も年齢の事情で召集されなかったため、戦地に出征する男子がいなかった。

当時、戦争の長期化に伴って多くの兵士が必要とされた中で、女性には、男子を産み育てて、兵士として国に捧げることが強く求められていた。戦争に息子を出すことがお国のため、それが「一人前」とされたのだ。
“息子がいない分、婦人会の活動でお国のためになろう”と、母は考えたのではないか__梅本さんは、その後も気になって、いとのさんが婦人会の活動から帰ってくるたびに「今日はどうだった?」とたずねたが、母が“一人前”という気持ちを抱いた様子は、最後までなかったという。