手堅く、放送でもネットでも選挙報道を展開したNHK
NHKは都議選でローカル番組の「首都圏ネットワーク」でシリーズ“SNSと選挙情報”「選挙の前に『たしかめて』」という報道キャンペーンを展開。民放のようなロゴを使ってSNSから流される情報とどう向き合えばいいのかについてSNSに詳しい専門家が解説して注意喚起を促した。
参院選の期間には、選挙報道に関しては「参院選2025」というサブタイトルを示して報道したが、民放のようにロゴを使った報道キャンペーン的な伝え方はせずにあくまで事実を伝えるという姿勢に終始した。放送するたびにQRコードで「くわしい情報はNHKの特設サイトへ」と誘導した。質・量ともに全国的な公共メディアとして手堅い内容だった。
配信に注力して「投票前の特番」を3本放送したテレビ東京
他の民放キー局と比べると、もともとニュース番組の放送枠が極端に少ないテレビ東京は、選挙報道についてのくわしい情報はネット配信の「テレ東BIZ」で視聴させるスタイルを確立させてきた。
参院選報道では、夜のニュース番組「WBS」で主に経済的な視点の争点に集中して報道した。経済人などが投票にあたって重視することは何かを語る「1票の流儀」というインタビューシリーズも放送。全編は「テレ東BIZ」で視聴させた。
テレビ東京は池上彰による生放送で政治を面白く見せる開票特別番組を開発したことで定評がある。2012年12月の衆院選では立体的な大型の模型を使った解説や公明党の支持母体の創価学会にも斬り込んでタブーに挑戦した開票特番「池上彰の総選挙ライブ」が高く評価されてギャラクシー賞優秀賞に選ばれた。
わかりやすい政治解説を含む開票特番の評判が上がるほど「なぜこれを投票が締め切られる前に(投票の前に)見せられないのか?」という批判や疑問にもつながってきた。
後で詳しく説明するが、テレビ東京は今回、「投票前の選挙特番」として投票の前に「選挙サテライト2025」を3回にわたって放送。その一部の映像も「テレ東BIZ」でWebにも配信するなど、ネットを意識して視聴者への情報伝達に努めた。
情報番組では充実した内容が目立ったテレビ朝日
テレビ朝日は『確かめて、選ぶ』という統一ロゴを出して報道した。ただし、放送で使い出したのは7月5日(土)の「サタデーステーション」から。それ以前の参院選公示日(7月3日)や翌日のニュースなどには登場していない。そうした面でもチグハグさが気になった。
番組キャスターらがこの統一ロゴ(サブタイトル)について説明する場面は見つけることができなかった。それだけに視聴者の視点から見たら説明不足でフラストレーションが残る。
今回の分析では様々な観点で、テレビ朝日の夕方・夜のニュース番組が他局と比較すると、いささか旧態依然でアップデートされていない印象を受けた。かつて「ニュースステーション」で一世を風靡した“報道のテレビ朝日”。視聴する側の“生活者目線“を大事にする報道で定評があったテレ朝だが、夕・夜のニュースに限ると一方的に情報を伝えるだけのスタイルがすごく多い印象である。
一方で「羽鳥慎一モーニングショー」「大下容子ワイド!スクランブル」などの情報番組はワイドショーだからこそできる長時間の特集をたびたび放送して内容もとても充実している回が目立つ。
参院選の公示前も公示後もパネルを使って「SNSでの偽情報の危険性」など様々な論点について問題提起していた。この2つの番組が識者をスタジオに招いて、選挙のたびにSNSが拡散させる偽情報・誤情報や偽動画に対する注意喚起を呼びかけた姿勢は個別の番組としては水準が高く評価したい。だが、ニュース番組とはどう連動しているのか、視聴者にはわかりにくかった。
ここまではテレビ局ごとに選挙報道の変化を分析・総評してきたが、後編ではいくつかのテーマごとに各局の対応を検証する(後編に続く)。
(注)NHK「ニュース7」「ニュースウオッチ9」、日テレ「news every.」「news zero」、テレ朝「スーパーJチャンネル」「報道ステーション」、TBS「Nスタ」「news 23」、テレ東「ゆうがたサテライト」「WBS」、フジ「Live Newsイット!」「FNN Live News α」
<執筆者略歴>
水島 宏明(みずしま・ひろあき)
1957年生。東京大学法学部卒。
札幌テレビ、日本テレビで報道記者、ロンドン・ベルリン特派員やドキュメンタリーの制作に携わる。生活保護や派遣労働、准看護師、化学物質過敏症、原子力発電の問題などで番組制作をしてきた。
「ネットカフェ難民」という造語が「新語・流行語大賞」のトップ10に。またドキュメンタリー「ネットカフェ難民」で芸術選奨・文部科学大臣賞を受ける。
2012年より法政大学社会学部教授、2016年より上智大学教授、2025年より桜美林大学・目白大学非常勤講師(現職)。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。