2024年に行われた複数の選挙ではSNSが大きな影響力を持った。一方、テレビは公平性に配慮するあまり、選挙に関する十分な情報を届けられなかったという反省があった。この状況下で行われた2025年参院選。テレビ各局の選挙報道にその反省はどれだけ生かされただろうか。ジャーナリストでメディア研究者の水島宏明氏が徹底検証した。その前編をお届けする。

2024年選挙の“SNSショック”の大反省で方向転換

2025年参院選はテレビ各局の“選挙報道の力”が試される試金石だった。前年の2024年は「SNS選挙元年」と呼ばれている。東京都知事選、衆院選、兵庫県知事選とSNSが選挙に対してかつてない影響力を見せつける事態が相次いだからだ。なかでも齋藤元彦知事が県議会に不信任決議を突きつけられて辞職して再び挑んだ兵庫県知事選挙の意外な結末はテレビ関係者に衝撃を与えた。

選挙期間中になるとテレビ各局は量的な公平性を意識するあまり、それまで連日報道してきた齋藤氏をめぐる様々な疑惑に関する報道を控える格好になってしまい、報道量を極端に減らす結果になったことで「意図的に何かを隠しているのでは?」と有権者はテレビへの疑念や不信を募らせた。

有権者から見れば選挙に関する情報が最も必要になる時期である選挙期間中にニュースが抑制・縮小される「選挙ニュースの空白」が起きて、多くの人がテレビというメディアに見切りをつけて新興メディアのSNSや動画共通サイトに向かった。

齋藤氏が再選を果たした夜、「(テレビを含める)大手メディアの敗北」と有名テレビ司会者が生放送で反省の弁を口にした。2024年は「SNSが選挙に影響を与えたターニングポイントの年」ともされた。

その後の初めての通常国政選挙として迎えることになった2025年参議院議員選挙。テレビ各社は信頼回復のためにどんな改善や工夫、努力をしたのだろうか。

各局がインターネットなどで公表している情報を調べてみたところ、NHKおよび主な民放キー局各社(チャンネル順に日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ)は2024年の一連の選挙を受けて大反省し、2025年に入って選挙報道についての「指針」などを大きく一新していたことがわかった。

今回、筆者は参院選の前哨戦とされた東京都議選(6月13日告示、6月22日投開票)と参院選(7月3日公示、7月20日投開票)の両方について、首都圏で放送された地上波テレビ局の番組を全録機で録画して分析した。

早朝のニュース情報番組、日中の情報番組や夕方のニュース番組、夜のニュース番組などあらゆる番組を対象にした。その中では月曜から金曜までの夕方ニュースと夜ニュース(注)について内容を詳しく分析した。