「質的公平性」の重視を打ち出したフジテレビ

フジテレビが参院選報道のキャッチフレーズとして掲げたのが『もっと投票の前に』だ。

都議選が告示された6月13日(金)にフジテレビは夕方ニュース番組「イット!」の中で木村拓也キャスターが次のようにコメントして「新報道指針」を公表した。

「いま、選挙をめぐる環境が劇的に変化しています。そんな中で今回フジテレビは選挙報道について、これら新たな方針を作っています」

(1) 選挙報道の「質的公平性」重視、各党・各候補者の活動・発言などニュース性に重きを置き積極的に報道
(2) 偽情報・真偽不明情報はファクトチェックに基づき発信
(3) 取材の安全対策を徹底 記者ら取材者を守る

このうち(2)はこれまで触れた日テレ、TBSの方針とも共通する。

一方で(3)は中居正広氏と女性アナウンサーとの問題でフジテレビが企業として根本的な再出発を迫られている時期と重なって、従業員ら取材者の人権をいかに守るかということが企業としての至上命題として急浮上したため、ここでも言及したのだと推察できる。他の局はあえて言語化はしないものの前提となっているはずの原則だ。

他の局と違って特徴的なのが(1)だ。日テレやTBSの番組では出演者たちがはっきりと使っていない「質的公平性」という言葉を明確に使っている点が際立っている。

実は“放送局のお目付け役”と呼ばれるBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会が、2017年に選挙の報道における「公平性」とは(各候補に同じ時間を与える)「量的公平性」ではなく、(それぞれが自主的に判断する)「質的公平性」だとする「意見」を全放送局に向けて送っている。

それでも各局は、各候補や各党幹部などの発言時間について「量的公平性」を固持し、前例踏襲を繰り返してきた。そうすれば問題にはならないという“守り”の姿勢だったが、多党化が進む今日では視聴者はそれぞれの言い分を機械的に短く伝えられるだけに終わりがちだ。

いきおい消化不良でメリハリのない無味乾燥な情報伝達になってしまい、よほど政治に関心がある人でない限りは言葉が耳から入ってこない。SNSの方がより信頼できると考える人が増えるのも無理からぬ背景になっていた。

フジテレビが『もっと投票の前に』というキャンペーンロゴを使い始めたのは参院選公示前の6月30日(月)「イット!」からだ。その際のスタジオでのコメントが注目される。

青井実キャスター「今回、フジテレビの報道・情報番組、そしてFNN系列では参院選の投票日よりも前に選挙に関する情報をしっかりとお伝えしていきます」

フジも日テレやTBS同様に“事前報道”を重視し、“偽情報・誤情報にだまされないよう注意喚起する報道”という姿勢を示したといえる。

「報道局」や「ニュース」に限定した日テレやTBSとは違って、フジはニュース・報道番組だけでなく情報番組もこの『もっと投票の前に』を使った報道キャンペーンの対象番組とした。実際に情報番組である「めざましテレビ」や「サン!シャイン」ではこのロゴを使用して参院選の特集を放送する日がたびたびあった。