■総理に全くこだわりがなかった・・・5万円分クーポン“あっさり撤回”の裏側
世論の反応をみてすぐに政策転換した典型例が先の臨時国会で焦点のひとつだった「18歳以下への10万円相当の給付」だ。5万円分をクーポンにするという施策は、時間がかかる上に事務経費が970億円もかかるなど自治体などから不評を買った。
岸田総理が初めて挑む臨時国会では、野党にとってこれが格好の攻撃材料となるはずだったが、総理はその機先を制するかのように、いとも簡単に「10万円現金一括給付も選択肢」に方針転換した。
このときの状況を、政府関係者のひとりは、
「総理はクーポンに全くこだわっていなかった。クーポンは財務省が言っているだけで、総理自身に思い入れがないから簡単に撤回できた」
と話した。「批判を受けそうなら、一度決めた方針でも撤回する」という、この10万円給付を巡る方針転換は党内でも評判はまずまず良かったかと思う。
しかし、こうした方針転換は幾度となく繰り返された。
■「対応を間違えると大変なことになるぞ・・・」繰り返される朝令暮改
「10万円相当の給付」をめぐる方針転換から遡ること約2週間。
2021年11月末、水際対策で国土交通省が行った“独断”は、官邸と霞が関の関係の「変化」がわかる象徴的な出来事だった。日本に到着する国際線の新規予約を一律で停止し、“海外の日本人が帰国できなくなる”と混乱が生じた。
「そんな話聞いてない、なんで報告がないんだ?」
岸田総理も官邸幹部らも国交省からの報告は受けておらず、急いで総理は方針撤回を指示した。その3日後、斉藤国交大臣は役所の独断だったこと、官邸へは事後報告だったことを認め謝罪したが、そのわずか1か月後、今度は文科省でも同じことが起こった。
オミクロン株の濃厚接触者は会場での受験は認めず追試などで対応すると文科省はいったん決めた。ところが受験生の中で予想以上の反発が起こった。またもや総理は文科省からこの方針を事前に聞かされてなかった。
「これは対応を間違えると大変なことになるぞ」
岸田総理は周囲にこう漏らし、別室受験を可能にするなど末松文科大臣に指示することになった。