「生産性向上」に必要なものは?
――企業が成長して生産性を上げていくからこそ賃上げを投資としてやっていくことが可能になる。どうやって企業は生産性を上げ成長していく道筋を描けばいいのか?
経団連・筒井会長:
「生産性向上にはざっくり言って2つある。一つは効率化、コスト削減で、過去何十年と日本の企業が取り組んできた。それとは別に今度は投資をすると。投資にも2つあって、戦略投資、これは設備投資。もう一つの投資が人への投資だと考えている。投資を促進させるために重要なのは“イノベーション”(技術や経営などの革新)。イノベーションが産業競争力を強化し、日本の経済全体を活性化していく。コアなエンジンになるという考え方をしている」
30年間のデフレ時代で、企業経営者が「設備投資や人への投資に消極的すぎた」という反省の声もある。
【失われた30年の反省と日本の将来像】は―

「企業は正直賃上げするよりも雇用の維持に躍起になっていた。こういう時代が長く続いたことは事実。大企業といえども労働分配率が低下してきたと。そういうことは真摯に受け止めなければならない」
そして、筒井会長が口にしたのは、株主の利益を最優先に考える【株主資本主義】から、従業員や顧客、取引先や地域など幅広い利害関係者の利益にも配慮した【ステークホルダー資本主義】への転換だ。
「株主資本主義からステークホルダー資本主義に変わらなければいけない方向性が
出されているにもかかわらず、まだ株主資本主義だなというイメージは強いと思う。設備投資・人への投資、両面の投資を企業の将来に備えて、着々と手を打っているかどうかを投資家にしっかり認めてもらうような、それを通じて社会全体が企業を評価できるような資本主義社会に変えていく必要がある」
「非製造業出身」新会長の強み

――非製造業出身の経団連会長。その意味をどう考えているか。
経団連・筒井会長:
「一つは中長期の視点。生命保険は保険商品も資産運用も非常に長期なので、人材育成も長期視点で行われる。もう一つは日本全体にネットワークを張って全都道府県を訪ねて激励をしてきた。その意味で日本全体の視点を持つということ。“中長期と日本全体”。これは自分のこれまでの仕事の中で染みついてきた行動様式、思考体系だと思っているので、経団連の仕事にも十分生かせるし生かしていきたい。さらに“将来世代への責任を果たす経団連”を大きく掲げて取り組んでいく」
消費増税「すべきと言える地合いにはない」
【税と社会保障改革】についてはどう議論を進めていくべきと考えるのか。
経団連・筒井会長:
「議論の出発点は社会保障における給付がある。一方で一人一人が負担をしている。給付と負担の全体的な構造をしっかり見える化し国民に示す。ここが議論の出発点だと思う。経団連としては、国民の各層の意見が集約されるような会議体、一種の国民会議的なものの創設を目指したいと思っている」
――選挙では消費税減税が支持され政治課題にさえなるようなスケジュール感だが消費税のあり方は?
「消費税は全世代型社会保障を実現するための恒久的な財源で、減税することは将来世代への負担につながりかねないという観点から適切ではないと申し上げてきた。参院選で消費減税の民意が反映されたことは重く受け止めなければいけないので、“今時点で消費増税をすべきと言える地合にはない”。ただ長期・超長期を考えると社会保障の持続可能性、財源の持続可能性を考えた場合、超富裕層への課税強化や所得税の再配分機能の強化、資産課税への着目、さらに企業も応分の負担をしていかなければならない。財源が不足する場合は法人税増税もあり得る」