進む「中国との一体化」 習近平政権が掲げる「グレーターベイエリア構想」とは
中国人が香港に移住し、香港人は頻繁に中国で買い物をする。人の交流が活発化する背景には中国の習近平政権が掲げる中国南部の広東省と香港、マカオを一体的に開発し「世界有数の経済・イノベーションの中心地」にするという「グレーターベイエリア構想」がある。現在人口およそ8,500万人、約300兆円の経済規模を誇るこのエリアを2035年までにニューヨーク、東京に次ぐ世界第三位の湾岸経済圏に育て上げようという壮大な計画だ。

物理的な距離を縮めるために急ピッチで橋や鉄道の建設が進む。そのうちのひとつ、2018年に開通した「香港・マカオ・中国珠海」を結ぶ橋は全長55キロメートル、世界最長の海上交通インフラだ。実際に香港からマカオまで車で走ってみると、しばらく海上の橋を走ったかと思うと途中から海底トンネルになり、再び海上を走ること約35分。ようやくマカオにたどり着いた。自分が海の上の道路を走っていることを忘れるほどの広い道路とスムーズさ、何よりその規模感に驚かされた。

鉄道や橋だけではない。香港と深センの境界に広がる東京23区の半分ほどのエリアでも大規模開発が進んでいる。ドローンで撮影した写真を見るとわかりやすいが、奥の高層ビル群が中国の深セン。手前が香港だ。中国・香港両政府が主導し、中国を代表する大企業が集まる深センと香港北部を一体化させ、新たな研究開発拠点にしようという構想だ。

近所で暮らす住民にこの開発について話を聞くと「このエリアが発展することで、香港の仕事も増えるでしょう。香港は中国と一緒に発展しなければ、中国に負けてしまいます」といった声や「中国が発展すると香港がよくなる。香港は中国の発展を支えます。私たちは中国人ですから」といった開発を支持する声が聞かれた。
中国広東省から香港に移住して11年、IT企業勤務の羅さん(34)は、中国南部の「グレーターベイエリア構想」は中国と香港、双方にとって大きなメリットがある計画だと話す。

「香港政府はより多くの香港人が中国の科学技術分野に参入し、貢献することを期待しているし、中国側はより多くの中国人が香港で活躍することを願っているでしょう。香港はグレーターベイエリアに組み込まれ、中国を背にしながら世界と向き合う役割を担っています。これから5年、10年後にはもっと多くの人が世界や、中国から香港にやってくる。そしてまた香港人も中国にでていく。香港はこうした“橋”のような役割を担うことになるでしょう」
一方、「グレーターベイエリア構想」によって香港がどんどん中国になっていくと思うか?との質問には「私はそのような心配はしていません。香港は中国のシステムに組み込まれていきますが、特別区として独自の司法、行政を持っていますから。このエリアはアジア太平洋の突出したエリアになるのは間違いないでしょう」との見方を示した。中国出身の「新香港人」たちは「グレーターベイエリア構想」による中国南部のさらなる発展に期待を寄せているようだ。