「香港は働く人にとって天国」 増え続ける「新香港人」とは

2022年、香港政府は「高度人材の空洞化」に対応するため高端人才通行証計画(TTPS:Top Talent Pass Scheme)という制度を導入した。世界ランキング上位100位以内の大学の卒業者や、年収250万香港ドル(約4,800万円)以上の人材を対象にビザを開放するものだ。

香港移民サポート会社 羅立光社長
「この制度によって明らかに移民の数が増えました。ただ、世界中から人材を呼び込む計画だったのですが、実際の申請者のほとんどは中国人です。海外の人は香港が安定するかどうかまだ見極めているのでしょうね」

羅社長によると、中国人が香港に移住する一番の理由は子どもの教育だという。香港は英語・中国語によるバイリンガル教育が充実している。また、香港での居住実績が7年を超えると永住権を取得することができる。さらに、子どもが「香港市民」として中国の大学を受験する場合、北京大学や清華大学といったトップ大学に合格するための必要点数が低くて済むという優遇がある。いずれにしても香港での子育ては子どもの将来に有利だと考え、香港に移り住む中国人が多いのだという。

この制度の申請者の実に9割が中国人で、これまでに約7万人の中国人が香港に移り住んだ。人口700万人あまりの香港の1%に相当する規模だ。このように民主化デモ以降、移住してきた中国人は、「新香港人」と呼ばれている。

北京から香港に移住して3年 IT企業勤務 アレンさん(33)

「香港は働く人にとっての天国だ、という言葉があります。税金が安い上に給料が高いですから」

2022年、香港に移住してきたアレンさん(33)。中国・北京出身で、香港の大学院でMBAを取得後、北京のIT企業に勤めていたが、3年前に香港の企業に転職。香港の魅力はなんといっても給料の高さ税率の低さだという。香港での収入は北京時代の倍。しかも香港の所得税は、北京の半分以下だという。もちろん香港は中国に比べ物価や家賃が高く、また中国語ではなく広東語を使うため大変な面もあるが、中国と文化も近く、何より世界から多様な人材が集まるグローバルな環境が気に入っている。

北京から香港に移住して3年 IT企業勤務 アレンさん(33)
「香港にはアジア人以外にも欧米人など世界中から人が集まっています。北京では見ることのできないものがたくさん見られるし、異なる文化を理解することができ面白いです。私はIT企業に勤めているので、西側のウェブサイトに自由にアクセスすることができるのも、仕事上とても助かります」

アレンさんは北京にはないこの多様性のある環境で、将来子どもはインターナショナルスクールで育てたい、と将来の展望を語った。

中国に引き寄せられる香港人 週末は中国でショッピング

「イナゴ」。かつて香港に殺到した中国人買い物客を「まるで香港に群がる虫のようだ」と揶揄する言葉である。しかし今、新たな現象が起きている。

今では逆に、香港人の間で週末に隣接する中国・深センを訪れ、買い物やマッサージを楽しむことがブームになっているのだ。香港からみて北部に位置する深センを訪れるため「北上消費」と呼ぶ。

香港中心部の旺角(モンコック)から地下鉄で50分。深センとの境界に到着する。地下鉄の駅の中で簡単に中国側へ入境できる。外国人の私はパスポートチェックが必要なため少々時間がかかったが、香港人は身分証にあたる「通行証」をかざすだけでスムーズに入境していた。昨年手続きがより簡素化され、今では深センと香港を毎日通勤で往復する人もいるという。

香港から中国深セン側へ向かう地下鉄の改札

深セン側に到着すると、香港人に人気だというショッピングモールを訪れた。お昼時のレストランにはたくさんの香港人が行列をなしていた。

「2週間に1回は深センに来ます。レストランの種類が多いし、遊ぶところも多いです。価格も安いです」
「中国商品の質は昔はあまりよくなかったけれど、今は良くなりました。サービスも向上しました」
「深センで買い物をして、食事をするついでにマッサージをします」

中国深センのショッピングモール レストランには行列も

物価が高騰する香港に比べ、深センは3割ほど安いこともあり、中国の商品やサービスを求めて毎月何度も深センを訪れるそうだ。2024年に香港から中国に陸路の検問所を通じて行った人は8191万人で、中国から香港に来た人(3402万人)の2倍以上にのぼるなど、中国本土と香港間の人の流れはここ数年間で逆転している。