「中国と一体化する香港」に香港市民は...
急ピッチですすむ香港と中国の一体化。生粋の香港人はどう思っているのだろうか。

香港人 女性30代
「中国と一体化することは仕方がありません。香港は中国に97年に返還されたのですから、中国と一体化するしかないでしょう。もし嫌だったら香港を出ていくしかありません」
Q.香港の魅力は失われると思いますか?
香港人 男性30代
「そう思います。香港はどんどん中国になっていくと思います」
聞こえてきたのは、諦めの声だった。
30年にわたり香港の人の流れをみてきた移民サポート会社の羅さんは、次々と中国の飲食チェーン店が進出し香港の老舗飲食店が駆逐され、中国の一都市になりつつある香港の姿をこう表現した。

香港 移民サポート会社 羅立光社長
「私は今後、香港という街は中国との接触が増え、より似通ったものになると思います。今の香港の最大の課題は、“いかに香港らしさを維持するか”です。香港は例えるなら、中年男性が人生の転機で迷っているかのようです。どのように変わるべきか迷い、新しい道を探しているのだと思います」
取材後記
今年5月、香港を再訪し、街を歩きながら私は不思議な気持ちになった。デモ隊が最後まで立てこもっていた香港理工大学、催涙ガスのにおいが立ち込めていた狭い路地裏、抗議の人々で埋め尽くされていた立法会前の広場。「本当にあのデモはここで起きていたのだろうか?」あまりに様変わりした街の風景に戸惑うことばかりだった。
政治意識の高かった香港人は今や口をつぐみ、押し寄せる「新香港人」や中国からの観光客の姿に「仕方がない」とあきらめを語る。このまま香港は香港らしさを失い、死んでいくのだろうか?
私はそうは思わない。
中国・香港が一体となって推し進めるインフラ開発、「グレーターベイエリア構想」の現場を歩くと「香港はすでに新たな道を歩み始めている」ことが手ごたえをもって感じられる。
「中国でありながら中国ではなかった」ことが魅力だった香港はいま、中国と一体化し「中国の香港」という新たな役割を演じようとしている。イギリス統治時代を経て中国への返還、つかの間の「1国2制度」、そして民主化デモとその終焉という変化の歴史をたどってきた香港人は、香港という街の持つ、逃れようのない宿命を背負いながら、前を向いて歩み続けている。香港にどんな未来が待っているのか。これからも取材を続けたいと思う。
JNN北京支局 室谷陽太
(前編・後編のうち後編)
