イメージトレーニングで磨いた、頭で考えた事を実際の動きに繋げる再現性

跳躍練習で、踏み切る足の最後の1歩にかかる負荷は体重の10~12倍で、赤松の場合約700キロだという。1本ごとにそれだけの負荷がかかれば、ケガのリスクが高まる。そこで取り組んだのが自分の映像を見て行う、イメージトレーニング。良いジャンプの動きと感覚を頭の中で何度もイメージして、パフォーマンスを向上させるというもの。これは赤松自らが実験対象となり、研究してきた理論だった。

赤松:どうやったら脳内の状態をより良く出来て、パフォーマンスを上げられるか。模範となる映像を見る事で、力がより発揮しやすい状態になるという研究ですね。

高橋:走高跳なら良い時のジャンプを最初に見る事によって、成功確率が上がるって事ですか?

赤松:そうですね。自分の次にやろうとしている同じ様な動きのパフォーマンスが上がる要因が、自分の脳内が力を発揮しやすいようになっているという研究ですね。

高橋:前に跳んだ記憶とかイメージとかっていうのは、自分の中で残っているものですか?

赤松:昔は全然残らなくて、どうやって跳んだんだろうなと思っていたんですけど、最近それがやっと掴めて再現性とかも上がってきて、やっとここまで来たかっていう感じなんですけど。

高橋:終わった後に分析をしたりしているんですか?それとも感覚だけを自分に研ぎ澄ませて覚えさせているのか?

赤松: 両方やっていますね。実際、コーチに試合の映像を撮ってもらって、1回の試技が終わるごとに確認してっていうのを繰り返しやってきたら、自分のその時の感覚と自分の内側の感覚。それが擦り合わせができるようになってきて、「自分でこう動かそうと思った時は、実際には体がこう動いているんだ」という事が段々分かってきたのが大きいと思いますね。

高橋:今まで跳躍をしなくても感覚として跳べているという選手やそういった事例があれば、それをなぞっていくことができるので、教科書みたいな見本はあると思うんですけど、誰を頼ればいいか分からないという手探り状態ってことですよね?

赤松:そうですね、結構ジャンプ練習とかその実際にバーを跳ぶみたいな刺激を入れないと、本番で高いパフォーマンスは望めないみたいなのもあって。一緒にパリに出場した真野友博選手(28、九電工)は「1週間に2、3回跳躍練習やらないと心配になっちゃう」と言っていた。僕は逆にすごいなと思いながら聞いているんですけど、その話を(笑)。怪我したことによって、(跳躍練習ができなかったが)それが僕の場合結構うまくいってるので。

高橋:新しい練習方法を見つけたってことですね。

赤松:そうですね!新しい発見があって、より効率的にできるようになったというか、実際にマットを出しておいてやっちゃうと、2時間とか3時間もかかっちゃうので、そういうのに疲れることなく、自分のやりたい練習というか自分に必要な練習がより積めているようになったのかもしれないですね。

高橋:天才ですね!中々自分の体をこんな自由自在に操れることはないなって。

赤松を大学時代から指導する林陵平コーチ(岐阜大学教育学部保健体育講座・准教授)は赤松の強さについて「僕らコーチが映像とかを見せるんですけど、本人の動きをちゃんと理解出来ているので、正直コーチなしでもいけるぐらい。自分を客観的に見れているのは、彼の強みかなと思います。跳躍練習をしなくてもそれが出来ちゃうのは普通ではないと思います」と話す。

赤松と林陵平コーチ

赤松: もちろん繋がっていますね。走高跳の研究とかも色々見ていて、こういうトレーニングがあるんだとか。実際に踏み切りの時に使われているのは、この筋肉でそこを鍛えていけば、自分に足りないのはどこの部位なのかなみたいなのを読み取ることで、知識としてそれを蓄えておくだけでも、同じ練習やっていても結構差が出るなっていうのは体感としてはあったので。

赤松は次戦、16日に行われるダイヤモンドリーグ第3戦のドーハ大会に出場予定。今月9日にカタール・ドーハで行われた「What Gravity Challenge」では、3か月ぶりに試合に出場し、シーズンベストの2m26を跳んで2位。パリ五輪で金メダルを獲得したへミッシュ・カー(ニュージーランド)や銀メダルのシェルビー・マクイーウェン(アメリカ)などトップ選手が出場する中での好成績だった。

9月開幕の東京世界陸上へは、パリ五輪で入賞しているため、参加標準記録の2m33をクリアすれば内定となる。

赤松:目標は今回メダルを取りたいなと思っているので、去年は5位入賞ということで、それ以上を狙っていこうかなというところで、メダルの獲得を目標に出来ればと思っているんですけど、自分のベストあと2センチ伸ばした上で、東京に臨みたいなと思っています。

■赤松諒一(30)
1995年5月2日生まれ、岐阜県出身。加納高⇒岐阜大学⇒岐阜大学大学院。所属は西武・プリンスホテルズワールドワイド。身長183cm。24年8月のパリ五輪では、自己ベストを1㎝更新する2m31を跳び、日本人88年ぶりの5位入賞を果たした。現在は所属会社でオフシーズンにはホテルマンとして接客業をこなし、岐阜大学医学部の研究生という顔を持つ。