「謝礼はいりません。大船渡の山火事で困っている人たちがいます。その人たちのために募金をしてくれたらうれしいです」

メッセージには、大船渡市役所が設けた義援金の受付口座も書かれていた。みむさんが義援金を振り込んで報告すると、Mさんはとても喜んでくれた。

取材に対し、Mさんは当たり前のように言う「だって、全部“ついで”なんですよ。コインランドリーに行ったのも仕事のついで、箱をとりにスーパーに寄ったのも晩ご飯を買うついで、郵便局に行ったのも通販の代金を振り込むついで。全部“ついで”でやったのに、僕がお礼をもらう筋合いなんてないですよ。僕も鹿児島市がめちゃくちゃになった8.6豪雨災害(93年)で、全国の義援金に助けてもらったから。」

鹿児島市

「鹿児島まで旅行に来てくれたのに、嫌な思い出になるとかわいそうでしょう。せっかく来てくれたのならいい思い出にしてほしいし。」こう話すMさんは、去年直腸がんを患い、一時人工肛門をつけて抗がん剤治療を続けた。「難しいことはできないけど、何か困っている人がいて、自分ができる範囲のことだったら手伝いたいといつも考えているんです」と言う。

「周りの人のことを考える人なんだと思います。そういう考えの人だから、息子のために走ってくれたんだと思います。」Mさんに感謝するみむさん。長男の不注意で鹿児島の人たちに心配や迷惑をかけ、「自分も反省している」と今回の一件を振り返る。

一方で、SNSでは、鹿児島の人たちから「取りに行きましょうか」とか「靴が見つかるよう祈っています」という反応だけでなく、「息子さんが旅先に鹿児島を選んでくれてうれしい」といった書き込みが多かったのが印象に残った。

長男も「鹿児島には親切な人が多かった」と言う。「お世話になったし、いつかみんなで鹿児島へ旅行に行きたいね」家族でそう話している。そして、「頂いたご恩を、私もいつかきっと誰かに返せますように」と願っている。