ロシアの一方的な4州併合に対して、東部南部で激しい反撃に出るウクライナ。“劣勢”“撤退”が報じられるロシア軍は、無差別的ミサイル攻撃を展開。プーチン氏が呼び掛ける停戦とは真逆の方向に事態が展開する中、NATOは「ステッドファスト・ヌーン」と名付けた核抑止のための演習を始めた。イギリス・ベルギーの上空でアメリカの爆撃機を含む60機の航空機が演習。核爆弾の投下訓練も行う模様だ。これに対抗するようにロシアも「グロム」と名付けた核演習を実施するとアメリカ政府が発表している。ウクライナ戦争における核使用の可能性はいよいよ危険水域に入った。最悪の事態が起きる前にこの戦争を終わらせる方法は本当にないのか。今一度議論した。
■「核兵器は使う姿勢をちらつかせることで脅威になって、抑止になる」
戦争の終わらせ方を論じる前に、何かと核使用を振りかざすプーチン氏が本当に核を使う可能性はどれほどなのか。ロシアの軍事面と外交面、双方の専門家に話を聞いた。
ロシア軍事専門家 パベル・フェルゲンハウエル氏
「戦略核兵器はすぐに使えるが、それ以外の核兵器は国防省の第12総局の基地で保管されているため運び出さなければならない。それを運ぶ手段は、現在核ではない兵器を運ぶためにウクライナで使われている。(中略~つまり戦術核をすぐに使うことは不可能)核兵器は使うための兵器ではなく抑止のための兵器。抑止目的で使うべきであって、実際にもそうなっている。
ロシアの軍人もわかっている。脅威として持っているんだと。クレムリンも同様だ。」
あくまでも抑止力としての核であるとクレムリン(プーチン氏)も考えているはずだとするフェルゲンハウエル氏。これに対し外交の専門家の見方は違うようだ。
ロシア政府系シンクタンク アンドレイ・コルトゥノフ事務局長
「ロシア側はNATOの勝利にならないようにあらゆる手段を使う用意がある。その中には核使用もある。NATO側から通常兵器だけが使われたとしてもだ。(中略)問題はクレムリンがNATOの関与をどう見ているか。NATOは最新の武器や優れた武器の供与だけでなく大量の諜報情報を提供していることはわかっている。軍事作戦の計画にも参加している。でもどこからが支援ではなく直接的関与になるのか“レッドライン”がわからない。(中略)事態を悪化させないためにもロシアとアメリカの対話のチャンネルを再開する必要がある。アメリカの直接的関与の境界線について合意できるかどうか。双方が越えてはいけない“レッドライン”について共通認識を持つことが重要だ」
ロシア人同士でも見方は異なる。が、防衛研究所の高橋氏は、二人の発言に矛盾はないという。
防衛研究所 高橋杉雄 研究室長
「“レッドライン”っていうのは抑止のために設定するんで、その高さの違いだけですよ。抑止力っていうのは使うかもって見せないと抑止になりませんから。使う姿勢をちらつかせることで脅威になって、抑止になる」
ただ高橋氏によればレッドラインを設定することは難しいだろうという。戦争におけるレッドラインとは“あいまいさの妙”だという。即ち、明確なレッドラインを決めるとその線以下の攻撃はOKとなってしまう。つまり、核が使われる可能性は思うほど高くないが、可能性が消えることはないということだ。やはり使われる前に停戦を探ることしかない。