若き小屋番「逃げ場は山しかないと思った」

「白駒の池」美しさが人を集める=©TBSテレビ

神戸:八ヶ岳中信高原国定公園は、長野県から山梨県にまたがり、八ヶ岳連峰を中心として、霧ケ峰高原の湿原植物群落でも知られています。八ヶ岳は山小屋が集中していて、「小屋ヶ岳」と呼ばれていると映画に出ていました。

深澤:他の山域と比べても山小屋の数が特に多いんです。北アルプスには、上高地、剣岳、槍ヶ岳と有名なところはたくさんありますが、冬になると山小屋が閉まってしまいます。高い登山レベルが必要で、行きづらい部分もあります。それに比べて八ヶ岳は冬も営業している山小屋が多く、泊まれるというところでハードルも下がり、魅力的な場所だと思っています。

神戸:山小屋の人たちもみんな魅力的で、根石岳山荘の佐藤誉起(やすき)さんはまだ若く、きついノルマと人間関係に悩んで仕事を辞め「逃げ場は山しかないと思った」と言っていました。

根石岳山荘の小屋番、佐藤誉起さん=©TBSテレビ

深澤:この企画が立ち上がる前から、佐藤さんの山小屋に客として遊びに行っている間柄だったんですが、他の山小屋のオーナーさんと比べて年も近く、親しくしていました。地上でうまくいかない瞬間に自分で気分転換し、歩みを少し緩やかにして考えたりする時間を作るため、山小屋に来たと言っていました。季節労働のような形で山小屋に働きに出る若い方々が増えています。

神戸:佐藤さんは、山に来る人たちとの人間関係ができていくうちに、今までと違う感覚で暮らすようになったように感じました。蓼科山頂ヒュッテのオーナー、米川佐和子さんは「山に行かないと会えない人がいて、直接的な人との出会いがある」と言っていました。山は、人と人が出会う場所なんだという印象を持ちました。

深澤:その通りだと思います。僕もそこが魅力で趣味で登山をしています。マンションの隣の人ともなかなか顔を合わせない現代社会の中で、山に行くと食べ物をシェアしたり、Wi-Fiがつながらないところが多いですから、自分たちのパーティー以外のお客さんと自然と仲良くなるんです。趣味が共通している人たちが集まっているから「どちらから来たんですか?」、すれ違う時には「おはようございます」「こんにちは」と当たり前のようにあいさつするんです。街を歩いていて、知らない人に「おはようございます」とか、なかなか声をかけないですけど、山では当たり前。そういうことから、人とつながっていくという面はありますね。

稜線を歩む登山客=©TBSテレビ

美しい映像が全編に

人間の小ささ=©TBSテレビ

神戸:山では、人と会うと同時に、自然も見ていく。とにかく映像がきれいで、びっくりしました。四季折々の映像もありますし、山岳写真家・菊池哲男さんの写真や動画も多用されていました。素晴らしかったですね。

深澤:先生の写真はすごくきれいです。特に動画。僕には星は撮れません。先生のカメラでバシッと「先生ならではの瞬間」を切り取った星系写真や山岳写真がとても魅力的で。僕がどんな良いドローンの画を撮っても、全部持っていかれてしまいます。

神戸:ドローンの映像はきれいでしたよ。ドローンでこんな風に撮れるのかとびっくりしました。

深澤:菊池先生は「ドローンは反則」とよく言っていましたけど(笑)。ドローンは上空に上がれるので、反則技的に撮れてしまうんです。風が強いと飛べなかったり、意外と難しい要素はたくさんあるんですが。

山岳救助の訓練=©TBSテレビ

神戸:でも、山に登らないと深澤さんも撮れない。山岳救助の訓練の様子も「かなり危ないところで撮っていたなあ」と感じました。

深澤:救助訓練の時は、下から普通に撮るつもりだったんですけど、救助隊の隊長さんが「中腹まで行かないといい画は撮れないよ、深澤くん」と言いました。元々クライミングの講習を受けていたんですが、本格的に登るのはあまり回数をこなしたことがなく、少し不安だったんですけど、「やってみろ」ということなので「わかりました」と急きょ上に上がりました。

神戸:とってもいい映像でした。