教祖の遺品 引き渡しに懸念

地下鉄サリン事件の2日後。警視庁は山梨県警と合同でオウム真理教の一斉捜索に乗り出した。当時、上九一色村には「サティアン」と呼ばれた教団施設が点在していた。

30年前、強制捜査にあたった元山梨県警科学捜査研究所の職員、竹川健一さん(71)。

元山梨県警 科学捜査研究所 竹川健一さん
「このあたりから捜査員が並んでいくんです。隊列を組んで」

関連施設はすべて撤去され、オウム真理教の面影はない。竹川さんが捜索したのは、第7サティアンだ。ここは教団の化学工場といわれ、猛毒のサリンが製造されていた。

先頭に立ち、連日捜索活動を行った。

元山梨県警 科学捜査研究所 竹川健一さん
「まずおどろいたのは、何トンもなん十トンも入るようなタンクがあって、これだけ猛毒のサリンを作って、どれだけ人を殺そうとしていたんだろう、とんでもないことだと」

――恐怖心は?
元山梨県警 科学捜査研究所 竹川健一さん

「ありましたよ、最初は。家族には話していません。こんな危険なところに入っているってことは」

現場ではガス検知器が鳴りやまなかった。

――このサリンの恐ろしさは?

元山梨県警 科学捜査研究所 竹川健一さん
「一滴二滴、皮膚に直接さわっても、死に至る。完全な設備がないと、(サリンを)作ってる最中にやっている人が死ぬ。そういう世界」

強制捜査が始まって、およそ2か月後。隠し部屋に潜んでいた教祖・麻原彰晃、本名・松本智津夫元死刑囚が逮捕された。この時の格好、ヘッドギアと作務衣が、今も存在することがわかった。

これは、独自に入手した松本元死刑囚の遺品リストだ。逮捕時に身に着けていた作務衣やヘッドギアなどを含め、170点にのぼる遺品が東京拘置所に残され、今は国が保管している。

だが協議が成立すれば、松本元死刑囚の家族に引き渡される可能性がある。オウム信者の脱会を支援してきた滝本太郎弁護士は、後継団体と関係が深い家族に渡る危険性をこう指摘する。

滝本太郎 弁護士
「麻原が使っていたブラシ、髪の毛がついてますでしょうから。歯ブラシ、作務衣、それは価値がある。宗教的価値が。髪の毛1本も昔5000円だったが、今ならいくらになるのか。作務衣だって端切れにして5万、10万にすぐなるでしょう」

遺品を所有すれば絶対的な力を持つ懸念がある。滝本弁護士は、中でもヘッドギアと赤紫の作務衣は宗教的に価値が高いと話す。

滝本太郎 弁護士
「(遺品を)受け取ったといえば済んじゃう、宗教的には。自分がグル(指導者)だといえば、それが正当性になる。新しいグル(指導者)が麻原と同じように、破壊願望が極めて強い、人間社会をおわりにさせたいと思っている人であれば、同じことがおこらないとはいえない」