自衛隊 幻の“頂上作戦”

発生直後、福山連隊長が直感したのは…

陸上自衛隊第32普通科連隊 福山隆 連隊長(当時)
「皇室に対するテロだと思った。(サリンを)精製して純度を高めて、もっと大量に撒けば、どの方向から風が吹いても皇室(皇居)に累が及ぶ」

全国の部隊運用を担当していた元陸将も当時の危機感をこう証言する。

元陸将
「皇居の風上で撒かれたら皇族をどう守れば良いのか、皇宮警察が訊いてきました。かなり執拗でした」

除染はひとまず完了し、地下鉄は翌日の始発から動き始めた。が、事態はさらに深刻になっていった。

事件を起こしたオウム真理教は、崩壊直後の旧ソ連から軍用ヘリを購入しており、自動小銃やサリン70トンの製造計画があった。武装蜂起の可能性があった。

陸上自衛隊第32普通科連隊 福山隆 連隊長(当時)
「ミルを稼働させて(サリンを詰めた)酒の一升瓶を積んで、人口密集地の新宿や渋谷、あるいは皇居に落とせば、都内1000万人のうち300万人くらいがダメージを受けるくらいの恐ろしさ」

警察の装備では対抗できない。危機感は一気に高まったという。福山連隊長は武装した教団との戦闘も想定していた。

陸上自衛隊第32普通科連隊 福山隆 連隊長(当時)
「大砲、高射砲でヘリを撃ち落とすし、警察がやられてしまったときは、自衛隊の実力を持って、やれと言うので、連隊で優秀なスナイパー(狙撃手)を10名を集めた」

オウムの大型ヘリの離陸に備えて、自衛隊のヘリ部隊も臨戦状態だったという。そしてある計画が極秘に検討されていた。頂上作戦だ。

元陸将
「実は、全国の部隊から急遽、暗視ゴーグルとサイレンサーをかき集めました。夜間、秘密裏に教祖、つまり頭領だけを倒せば、被害は最小限に抑えられるだろうと」

――教祖を狙撃するということですか?
元陸将

「そうですね。ただ、決行した場合の法律的な根拠を詰め切れませんでした。最終的に計画が実行されずにホッとしました」

地下鉄サリン事件後、教団幹部は逃走し、一触即発の危機は回避されたのだ。