GDP・雇用・インフレ… トランプ関税の影響は?

――「GDPナウ」がマイナス。手荒い関税政策が先行して出てきていることが原因か?

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
急激に貿易赤字が拡大している。一部、駆け込み輸入で、輸入が増えている。ただ消費も1月のデータは悪かったので、全体的に少し経済が減速しつつあるように見える。

――市場からすると、関税政策の方だけが先走ってるという印象か?

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:

2018年のときとの違いは、2018年はその関税の引き上げと減税の実施時期が一致した。だから企業にとってみれば、少し相殺できた。しかし、今回は企業の減税は来年なので、先行して輸入関税率の方が出ているので、痛みの方が出ているということでこのタイミングのずれが大きい。

――トランプ大統領は、成果を焦って関税政策を先出ししてるのか?

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:

そうですね。だから輸入関税率を引き上げて、工場を誘致して、もっと生産を増やしたい、それを見せたいという意欲がすごい。

――我々から見ると、何のためにこの関税政策をやっているのかよくわからない。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
アメリカの製造業を復活させたいから、メキシコとかカナダから工場をアメリカに移転してほしい。雇用も確保する。これが一つ。

もう一つはアメリカの財政赤字が2兆ドル弱でかなり大きい。来年の減税の追加も増やすと、さらに財政赤字が拡大する。そのためにイーロン・マスク氏の政府効率化省ができて、徹底した歳出改革でも全部できない。政府が機能しなくなるので、人件費のカットは大したことない。大半の財政赤字の縮小は、輸入関税率によってやると言っている。(関税引き上げが財源になる)だから、口先だけではないと思う。輸入関税率で関税収入を増やさないと財政赤字を減らせないので、ある程度はやるのではないか。

――関税政策は脅しではなく、本気でやると?

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:

はい、本気で財政赤字を減らすと言っている。(その財源は関税か)そうです。

さて“トランプ関税”が経済に与える影響は?ブルッキングス研究所の試算で、GDPの成長率を見ていく。“トランプ関税”によってアメリカのGDPの成長率は0.24%低下。報復措置があると、0.32%低下する。カナダとメキシコのGDPも報復関税を行った場合には3%以上の損失になるという試算がある。

――アメリカは相対的に雇用も影響は少なく、カナダやメキシコは大打撃なのか。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:

やはりカナダとメキシコとは、USMCAという自由貿易協定でゼロ関税なので、そこでたくさん生産してアメリカに輸出している。カナダとメキシコの輸出の8割ぐらいがアメリカ。しかしアメリカはより多様化しているので、カナダメキシコからの輸入は全体20%ぐらい。影響が全然違う。

――“トランプ関税”は、アメリカとしては正解という話になる。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:

ただマイナス0.2%でも成長率が下押しされることは、大きく影響してくる。

インフレの影響を見ていく。アメリカではインフレ率が1.33%上昇。報復措置があると0.77%の上昇。カナダを見てみると、カナダは報復関税があるとアメリカからの輸入品の価格が上がるということでインフレ率が4.23%に上昇。メキシコは報復関税があると6%に減少する。

――これはどう見たらよいか。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:

今のアメリカのインフレ率は3%。だから単純に1%プラスされて4%となるとすごく大きい。だからアメリカの中央銀行は利下げすると市場は見ている。むしろインフレになってきたら利上げということも視野に入ってくるので、市場の混乱は大きくなると思う。

――逆にメキシコ・カナダは景気が悪くなるから、インフレは報復措置がなければ下がる。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:

一方的にアメリカに輸出できなくなるので、経済が悪くなるので、インフレが下がるが、自らもアメリカに関税を課せば、自らの輸入品も上がるので、カナダの場合は少しインフレになるが、メキシコは経済の悪さの方が先行してデフレになる。

今後はどの国がターゲットになるのか。今のところ、メキシコ・カナダ・中国をターゲットにしている。「財(モノ)の輸入額」を見ると、輸入額が多いところを狙っている。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
財の輸入額と貿易赤字を見ているが、メキシコ・カナダ・中国でアメリカの輸入の35%ほど。ここにEUが入ってくると50%を超えてくるのでアメリカの物価を押し上げる影響が大きい。

――国単位で見るとメキシコ・カナダ・中国がベスト3。トランプ大統領の戦略は合理的だ。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:

中国からアメリカへの輸出が迂回してきているから、そこをまず封じ込めたいということだ。注目はベトナム。トランプ氏が2018年から関税を引き上げて以来、急激にベトナムからアメリカへの輸出と、アメリカの貿易額赤字がものすごく大きくなっている。今日本に対する貿易赤字より大きい。ここがASEAN経由、つまりベトナム経由で中国からのアメリカへの輸出が迂回している。ここがどうなるかが注目だ。

――トランプ大統領が「円安誘導」と批判しているが、今後のドル円相場はどうなるのか。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
今は関税引き上げなどでアメリカ経済が悪くなると市場が織り込んでいるので、今週見てわかるようにドルの全面安。アメリカの中央銀行がおそらく今年3回利下げするとみんなが見ているので、金利差が低くなるから円高の方向に移っている。今は日銀にとってみれば超円安が修正されているので、為替についてはいいが、また物価が上がってきたときにアメリカの中央銀行が仮に利上げするということになると、この為替の動きがまた変わるかもしれない。

――心地よいレベルで徐々に円高が進んでくれるかどうかはまだ保証がない。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:

そうですね。はい。

(BS-TBS『Bizスクエア』 3月8日放送より)