TBS火曜ドラマ枠で放送中の『まどか26歳、研修医やってます!』で、“正中弓状靭帯圧迫症候群”という疾患が描かれた。食後の腹痛、胸・背中の痛みという症状が起きる疾患だが、医師、患者ともに認知が低いという。
ここでは医療法人社団 あんしん会 四谷メディカルキューブで正中弓状靭帯圧迫症候群の診療スタッフとして在籍する春田英律先生に、正中弓状靭帯圧迫症候群とはどんな疾患なのか詳しく解説してもらう。そして、春田先生が語る現在の医療現場の実情とは。
食後の腹痛、胸・背中の痛み――正中弓状靭帯圧迫症候群とは

お腹の大動脈から分かれる腹腔動脈の近くにあり、左右の横隔膜をつなぎ止める働きをもつ「正中弓状靭帯」。これが生まれつきやや低い位置にあると、腹腔動脈や神経を圧迫し、血流不足や神経障害を引き起こす。その結果、食後の腹痛や、胸・背中の痛みを生じる疾患が正中弓状靭帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome:MALS)だ。
「最初にドンッと強い痛みを感じても、時間が経つと自然に痛みが落ち着いてしまう。だからこそ、医師が痛みの原因を探る時間が短く、疾患までたどり着けないことが多いんです」と春田先生は指摘する。
MALSの症状は一度起こると繰り返し現れ、その痛みは狭心症を思わせるほど激烈だ。さらに、運動時や動作時、ストレス時にも腹痛が起こるほか、食後の嘔気・嘔吐・便秘・下痢という症状を伴うこともある。しかし、こうした症状が“機能性ディスペプシア(ストレス性胃腸障害)”と診断されてしまうケースも少なくない。本作でも、先にその診断が下されていたが、各専門分野の医師がチームとなって1人の患者さんを診断、治療に導いていくチーム医療を組めたことで疾患が判明する。この疾患の背景をたどると、すい臓周辺の動脈瘤が破裂する原因となる「内臓動脈瘤」と関連があるという。
「MALSによる血流ストレスが原因と考えられる内臓動脈瘤は、20世紀後半(実際には1990年代)から知られており、外科の現場でも時折靭帯を切る手術が行われてきました。最近になって、食後の腹痛や胸・背中の痛みの原因になっていることが明らかになったんです。私自身は2020年からこの疾患の手術に携わっていますが、当時は日本での手術実績がほとんどなく、さまざまな文献や現場で知識を学びながら挑みました」(春田先生)。
春田先生らの調べによると、正中弓状靭帯の位置異常は3.1%に認められ、1.3%の人が手術が必要なほどの強い痛みを抱えているという。しかし、この疾患を認識している医師や手術を行える医師が、まだ少ないのが現状だ。