第2次トランプ政権始動 日本はどう対応すべき?

――日本がアメリカに貢献していることを理解してもらわないといけない。

NTT会長 澤田純氏:
今までもそうだし、これからもそうだということを、数字できちんと話をしていくべきだ。
例えば、アメリカの中における雇用が日本の投資によって100万人も作っている。そういうところをアピールする。もう一つは不可欠性。日本でないとできないような…例えば半導体の材料とかは、日本がかなり強い。そういうものをアメリカと一緒にやろうというようなアピールが大事だ。

アメリカへの投資額を強調すべきだという点。その数字を具体的に見ていく。2014年は3731億ドル。2023年には7833億ドル。日本円にすると約122兆円ということで、この9年間で倍以上伸びている。

――日本企業は国内に投資しないで、アメリカには投資している。

NTT会長 澤田純氏:
市場の伸びと大きさがすごいというのがある。同盟国で、日本の延長として見ているところがあると思う。

そして対米投資額。国別に見てみても、日本が最も多くて、全体の15%を占めている。

――日本はアメリカへの最大投資国だ。

NTT会長 澤田純氏:
非常に各地アメリカの方からの認識も上がっている状況。我々自身も、実は州政府にまで連携を強めている。すると彼らはやはりそれがありがたいという構造にもなる。

――日本製鉄がUSスチールを買収しようとしたことをアメリカ拒否した件は懸念材料か。

NTT会長 澤田純氏:
懸念材料の一つだとは思う。感情論的な話は入ってるとは思うが、もう一度議論するという事で延長された。アメリカのためにも日本のためにもいいんだということをもう一度きちんと説明していくことが大事だ。実は日米経済協議会も経団連も向こうの商工会と一緒に「ルールに基づいてちゃんとやりましょう」と2度も3度も声明を出している。アメリカ産業界も理解をしてくれているところだ。

――トランプ政権の誕生は、日本が中国と向き合っていく意味ではプラスかマイナスか。

NTT会長 澤田純氏:
両方あるが、今の時点ではプラス。バイデン氏のとき以上に強硬に接していくという構造はあると思う。そういう意味で言うと、日米の構造を強くしうる部分が出てくるので、両方あるが、プラスかなと。

――中国に対して、技術流出が懸念されたり、日本の経済安全保障を脅かしたりという要素があるので、きちんと対応していかなくてはという問題意識があるのか。

NTT会長 澤田純氏:
おっしゃる通り。産業界として、当然市場は大きいが、そういういろんな背景条件もあるので、そういう意味でいう中国、アメリカをはかりにかけるのではなく、まずは親米で対応していくのが基本ではないか。

――トランプ政権誕生で、中国は融和的なことを言うが、あんまり乗らない方がよいか。

NTT会長 澤田純氏:
今乗ると危ないのではないか。中国の経済も悪いという状況もあり、最終的に数年先にトランプ政権が中国とディールをしてしまうと、日本の立ち位置がはっきりしていないと浮いてしまうので、むしろ綱引きと一緒でどちらについておくかというのははっきりした方がいいようには感じている。どちらからも見放されるという構造になりかねない。

――もう一つ大事なのは、自由貿易、安全保障、IPEF、TPP…いろんな多国間の枠組みを日本がリードして作ってきたが、トランプ政権になると止めてアメリカと向き合うことが必要なのか。

NTT会長 澤田純氏:
いや、これは考え方を変えて、今までのように日本はどうしても自由貿易が大事だが、アメリカがG1を目指した場合、一緒に歩みながら、かつ他国とも多元的に付き合うという、そういうハイブリッドなやり方が求められてくる。矛盾しているようだが、その状況に応じて貿易のやり方を2つ用意する。多国間をやりながら、2国間、対アメリカもやる。

――第一期トランプ政権のときにアメリカは「TPP嫌だ」と出ていった。しかし日本は他の国とは自由貿易案を作り、まとめ上げた。こういうことはこれからも続けるべきか。

NTT会長 澤田純氏:
これからも自信を持ってやっていくべき。BRICSを見たらそうだが、特にグローバルサウスと言われるようなインドやアフリカの国がアメリカ流に動くかどうかもわからない。むしろ日本が連携を深めながら、場合によっては、条件によってはアメリカに来てもらう。そういうリーダーシップをとっていくべきだと思う。

――対アメリカで言うと、我々はどうしても対トランプ政権と見てしまうが、他の相手みたいなものとの連携も大事か。

NTT会長 澤田純氏:
それももちろんあると思う。ただ連邦政府とトランプ政権ではあると思うが、アメリカは州でできている国なので、半分はまだ民主党の知事がいたりする。この方々がまたそれぞれの権能を持っているから、そこともやはり付き合ってうまく連携していく。産業界的には連携がキーワード。こういうグローバルサウスとも州とも連携していく。そういう多元的な営みが大事。

――民間企業であっても、州政府、地方政府、企業、あるいはアメリカ以外のその他の国とも話すという複眼的な外交のセンスが経営者に問われるということか。

NTT会長 澤田純氏:
二元論的に、AかBかみたいな世界ではなくなっていくだろう。

――NTTは「IOWN」を積極的に進めているが、技術協力でトランプ政権が障害にならないか。

NTT会長 澤田純氏:
第1次政権の時に、世界中で一番最初に「クリーンネットワーク」と指定してくれたのがNTT。5G関係での技術やIWONのグローバルフォーラムも実はアメリカに作っている。超党派的に連携の流れができているので、継続して深めていきたい。おそらく問題にならないと思っている。ラピダスがIBMと組んだり、NTTもインテルと組んでいる。

――日本のアメリカ通はアメリカがどうしてこんなに変わったのかと嘆くが、そればかりでは仕方がない。

NTT会長 澤田純氏:
今までと違いリベラルな感じではないが「もう一度強いアメリカを」=「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」と声明で言っていた。もう一度「アメリカンドリーム」「我々が憧れているようなアメリカ」が来るのかもしれない。

――「戦後の経済秩序が終わりを告げた」「グローバル時代が終わった」と言われ転換期にあると思うが、ここから先の国際秩序はどんな姿になるのか。

NTT会長 澤田純氏:
いろんな価値を認め合うような多元的なモデルになっていくと思う。そういう構造になると、自分中心だけでは駄目。もちろん「自国ファースト」は大事にしながら、他ともちゃんと付き合う利他がある世界が求められていくのではないか。

――アメリカのような大国が「自分の国が第一」と公言してはばからない。大国ではなくなってきた日本は、どういう国であるべきか。

NTT会長 澤田純氏:
スイスはいい例だが、自立的なポジションを明確にしながら「自国ファースト」「ジャパンファースト」をちゃんと言っていくことが大事。それは「アメリカファースト」と言っている人は認めざるを得ない構造になる。ただ、その上で「我々は世界のために何をするか」日本がリーダーシップを取って議論していくような場をどんどん広げていくことが大事になってくると思う。

――そのことが、国際社会からの日本の信頼を得るということか。

NTT会長 澤田純氏:
今ある信頼をより広げる。そのためには経営者をかなり厳しい時代に入っていく。かなりハードルは高くなるが、夢もある。

(BS-TBS『Bizスクエア』 1月25日放送より)