“金利がある世界”で「退場がはじまる」

comugi: そういう人たちにとって、冒頭に言ったような金利が上昇するというシチュエーションは大丈夫ですか。

牧野: 大丈夫じゃないです。富裕層の方は比較的大丈夫なんですが。

comugi: もともとお金持ちですからね。

牧野: ただ、カテゴリーの2、3、4番目の人たちは結構大変です。たとえば投資で買ってる人は投資の理論で言うと、金利が上がるということは、物件価格は下がるということですよね。

comugi: どういうことですか。

牧野: 「投資利回り」という考え方で、たとえば1億円のマンションを買って、これを賃貸にまわして、年間400万円の賃料が入ります。そしたら利回りは4%です。

調達金利が上がるとまず借入金の金利が上がるので、分母である投資コストが高くなりますよね。

それから、「期待利回り」といって、このマンションで何%の利回りを実現できるかを考えるのが、投資理論の基本中の基本です。

comugi: なるほど。

牧野: たとえば「利回りが4%じゃないと買いたくない」と考えていた人が、金利が1%上がったとすると、「あれ4%じゃちょっと足らないな」と感じるわけです。

金利5%だったらちょうどミートすると考えると、物件価格が下がってくれないとあるいは賃料がものすごいその分だけ上がるかどっちかですよね。

comugi: ただ一方で不動産業界でいわれてる話を聞くに、人件費や原料の価格は上がってると、なかなか原価を下げるって難しいんじゃないでしょうか。

牧野: 原価は上がる一方なんですね。加えて金利も上がっちゃうと、そうすると分母ばっかりが増えてくんですね。

それに対して、東京の賃貸マンションの賃貸料がそれに合わせてガンガン上がっていくかというと、ここの部分って、実需じゃないですか。

稼ぎが飛躍的に上がって、家賃月額100万円でもOKというような人がいっぱい出てくれば成り立つんですけど、なかなかそういう世の中ではないので。
ということは、利回りが下がっちゃうとリスクは大きいよねとみんな考えるわけです。

comugi: なるほど。ということは、富裕層にしても投資家の方々というのも徐々に不動産から離れていく可能性があるということですか?

牧野: その可能性はあります。

comugi: そうなってくると、市場の状況が徐々に違うものに変わっていくということですよね。

牧野: 投資のマーケットというのは、そういった意味ではものすごいドライなんですね。だから今までは非常に環境が良くて、日本は金利なんて上げられるわけがないと、いろんな人が言ったわけです。

この時代が続けば、どんどんマンションは値上がりしていくというふうに考えて、みんな買ってると。今でもそうなんですよ。

でも投資って面白くて、真逆に考える人がいるから売買マーケットが成立するんですね。どこかでバランスする動きがある。

comugi: なるほど。

牧野: それから相続についても、国税庁が新しい見解を発表しまして、マンションは時価の6割で評価しますという方針になっています。

タワマンだから得とか上層階だから得というのが全部なくなりました。

comugi: そんな大変化があったんですが。

牧野: この1~2年のことです。とはいえ時価の6割で評価してくれるわけですから、節税効果がゼロになったわけでは当然ないんですけれど。

一番大きなファクターは金利です。日銀は0.1から0.25程度とアナウンスメントしたんで、金利の上げ幅としてはあんまり大したことないですね。

ところが、不動産投資マーケットの中で、1%はこの先上がるんではないかというのが、共通の見解になってくると、不動産投資をしている人の中でぐらつく人が出てきます。

これを投資の世界で「イグジット」と言うんですが、売って逃げようとするということですね。「これは宴が終わった」と、実際に売り始めている投資家がいます。

comugi: 徐々にそれが加速していくんでしょうか。

牧野: とはいえ、また宴が続くこともあるんですよ。そういうことも考えて、残っている人も当然いるんですけど、退場が始まっているというのが今のマーケットです。

comugi: これが不動産ビジネスの核心に近い話、まさに本音というところですね。

牧野: つまり、マーケットを引っ張ってきた人の間に動揺が走って、この一部が離脱を始めると、今までのマンションマーケットというのは、こういった人たちで支えられてきていますので、この人たちのニーズ、需要が落ちてしまうと。

そうなると、マンションを買う人いないですよね。そうなると、ペアローンでギリギリで借りてるパワーカップルの方々は、金利1%上がっちゃうと結構つらいですよね。

それに今は物価がどんどん上がってきてますよね。そうすると、当初借りたときよりも生活コストもすごい上がってる中で金利上げられると、中にはもう無理だという人が出てきても不思議ではないです。