廣中、カロラインのタスキリレーで優勝争いを
その廣中が「楽しみにしている」と言うのが4区のカリバ・カロライン(20)とのタスキリレーだ。
カロラインは鹿児島の神村学園高3年だった昨年、インターハイ1500mと3000mで2年連続2冠を達成。全国高校駅伝アンカー(5区5km)でも2年連続区間賞で、昨年は2人を抜いて優勝テープを切った。1500mの4分06秒54、3000mの8分40秒86は両種目とも高校国内国際最高記録である。
そのカロラインがケニア人選手としては初めてJP日本郵政グループに今年入社。憧れの廣中とタスキをつなぎたい思いがカロラインにはあった。「カロラインが入社したときは故障をしていて、練習することがずっとできませんでした。カロラインが(一緒に練習することやタスキを)待ってくれていると聞いたときはうれしかったですね。そういう選手とタスキリレーをしたい」
カロラインのことを話す廣中の表情は、生き生きとしていた。
廣中に対してだけでなく、カロラインの加入はチームへの影響も大きい。これまでと違いインターナショナル区間の4区で、多少の後れは挽回できる。昨年までは3区で大きなリードを奪う役割が廣中にあったが、今回は3、4区セットでその役割を果たせればいい。復帰レースの廣中にとっては、気持ちの部分でかなり楽になるのではないか。
カロラインの存在だけでなく、故障からの復活のプロセスで「色々な人に助けてもらった」と言う。「故障をして、周りの人に自分の状況を正確に伝えることの重要さがわかりました。どういう伝え方をすれば伝わりやすいのか。本格的な練習を再開できてからも、自分が感じていることと、スタッフが見た動きなどを、すり合わせることが大事なんだと」
チームメイトでは「(同期の)菅田雅香がキャプテンになって、チームを引っ張ってくれています」と感謝の言葉を口にした。
菅田は競技面でも成長を見せ、今季は日本選手権10000mで5位入賞。日本トップレベルの力を付けた。昨年と同じ1区に起用されたが、前回の区間12位を大きく上回るのは間違いない。菅田が1区を上位でつなげば、3、4区の廣中&カロラインのタスキリレーでトップに立つ展開も期待できる。
日本郵政というチームがあっての廣中の復活であり、廣中の復活で日本郵政の優勝争いの可能性が高まった。
しまむらに移籍した安藤友香の自覚
3区ではしまむらに移籍した安藤友香の走りにも注目したい。
安藤は東京五輪10000mに廣中とともに出場。それ以前から17年に2時間21分36秒の初マラソン日本最高を樹立、同年のロンドン世界陸上代表入りするなど、マラソンでも日本トップレベルで走り続けてきた。
今年3月の名古屋ウィメンズでは2時間21分18秒の自己新で優勝。惜しくもパリ五輪代表入りは逃したが、充実ぶりが感じられた。
ところが名古屋ウィメンズの後は、廣中と同様に故障に苦しんだ。大腿の疲労骨折で3カ月走れなかったという。安藤も「陸上競技人生でこれだけの長さを休んだのは初めてです」と言う。
ただ、廣中の半分の期間だった分、安藤は9月の全日本実業団陸上、Athletics Challenge Cupと5000mを走ることができた。記録は15分台後半で自己記録とはまだ差があり、10月のプリンセス駅伝も3区で区間9位。
安藤は移籍を多く経験してきた選手。色々な事情があってのことだが、指導者や練習環境が変わってきても結果を残し続けている。「指導者や環境はすごく大事だと思いますが、それを生かすも殺すも、最終的には自分次第だと思います。ちょっとリスクを取って、言い訳を作らず挑戦していくことは、プレッシャーもあますが、それをプラスに変えていけたらな、という思いがあります。今回の故障も新しい自分を発見できる1つのきっかけでした」
完全復活はもう少し先になるかもしれないが、クイーンズ駅伝をステップに、冬の世界陸上マラソン選考レースに出場する。
しまむらの太田崇監督は次のように説明した。「うちの練習のやり方もありますが、今までの安藤の経験もありますから、相談しながらやっています。チームの練習にこれから、安藤なりに付け足してマラソン練習をしていくことになります。付け足す部分が、彼女の言う“自分次第”なんです」
選考レースへの意気込みを聞いた。
「代表、狙いますよ。もちろんです!」
安藤にも笑顔が戻ってきている。
3区出場選手たちのコメント
前日会見に出席した選手やこれまで取材させてもらった選手たちの、3区についてのコメントを紹介する。
◆五島莉乃(資生堂)
「日本のトップで戦っている選手たちと正々堂々、思い切り勝負したい気持ちがあります。オリンピックに出場した選手同士ということは意識しませんが、チームのために私にできる最大限の走りをしたい。(昨年廣中が出した33分04秒の区間記録も)チームのために更新できたらいいですね。1区と2区の流れをさらに勢いをつけ、次の選手につなげていきたいです」
◆樺沢和佳奈(三井住友海上)
「抜かれたら付いて行きたいです。選手個人に対してどうこうしたい気持ちはありませんが、チームのために私ができる3区の走りをしたい。(三井住友海上の目標である)クイーンズエイト(次回出場権を得られる8位以内)を争うチームの選手に対してはガツガツするかもしれません」
◆小海遥(第一生命グループ)
(自身の走りのどこを見てほしいか、という質問に)
「駅伝なので最初からハイペースで突っ込むこともありますが、突っ込んでつらくなってもペースダウンしないところを見てもらえたら。走りで自分の気持ちを体現できたらいいな、と思っていますので、チームのために、つらそうになっても走れるところを見せたいです」
◆佐藤早也伽(積水化学)
「昨年の3区は(区間賞の廣中と23秒差の区間2位でも)前半から攻めた走りができませんでした。(廣中と5秒差で区間2位だった)21年の方が5km通過が15分40秒くらいで突っ込んでいます。昨年もチームが(3区で)トップに立てたことはOKだったのですが、満足度では自分のスピードが速くてトップに立てた21年の方が大きかったです。去年は前半が1人だったこともありますが、今年は前半から攻めていきたい」
トップ選手が多く出場する3区の対決は、かなり激しいものになるだろう。結果として勝者が生まれれば、敗者も決まる。勝負の世界では避けられないことだ。
だがタイムや順位で負けた選手も、走りの内容次第で次へのステップとすることができる。そのプロセスにも注目していきたい。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
写真は前日会見の廣中選手