沈静化を図ろうとする中国当局
6月24日に蘇州で起きた事件でいうと、警察は「偶発的な事件」だと判断している。さらに中国の外務省は「反日感情とは無関係」と説明している。
この事件から2週間前の6月10日、中国東北部・吉林市内の公園で、アメリカ人の教員ら4人が、やはり刃物を持った男に襲われ、負傷した。教員たちはアメリカの大学から中国の学生向けに勉強を教えるために訪中していた。容疑者の中国人の男は失業者とされている。
このアメリカ人が襲われた事件、それに蘇州で日本人母子が襲われた事件。アメリカとの関係や、日本との関係が影響しているとは、私は思わないし、思いたくない。ただ、アメリカ人への切りつけが起きた直後に、日本人母子を切りつける事件が続き、中国当局はピリピリしているだろう。
蘇州での事件で逮捕された男は、社会に対する不満を持っていて、それが動機とみられている。日本メディアの報道によると、現地の捜査当局が日本政府にそう伝えたようだ。容疑者の人物像については「別の町から蘇州に出稼ぎに来たものの、仕事や家族がなく孤立感を深めていた」と説明している。つまり「外国人、日本人を狙った犯罪ではない」ということだ。アメリカ人を襲った吉林での事件と同じ説明だった。
この説明を疑うわけではないが「事件の起きた街の者ではない、犯人はよそ者」「社会全般への不満が犯行動機」ということを強調している。街の安全性や、排外的な感情といった懸念から、遠いところ遠いところで、鎮静化を図ろうとする意図を感じてしまう。
SNS上にあふれる反日感情
一方で、蘇州の事件では犯行直後、ソーシャルメディアで凶行に及んだ容疑者を賞賛する声があふれた。反日、それに偏った愛国心の名を借りて犯行を美化する内容だ。身を挺して亡くなった中国人女性については「日本のスパイだった」とか、負傷した日本人母子を指して「ざまあみろ」といった書き込みもあった。
こんな心ない人間は、残念だが、どこにもいる。中国でもごく一部だと信じる。これら書き込みは当局によって削除され、特に過激な内容についてはアカウントが閉鎖された。
今回の事件では、スクールバスの案内係、胡友平さんが犯人に刃物で刺され、亡くなった。報道によると、「もしあの時、犯人を止められなかったら、もっと多くの被害者が出ていた」と目撃者が話しているという。