バックヤードに掲示鐘ヶ江駅長の目標

140人が在籍するJR九州、博多駅のバックヤード。通路脇にコーナーがあった。鐘ヶ江駅長が個人で購入し読み終わったあとの日経新聞や、日経ウーマンといった雑誌が置いてある。安全運行などの基本的な業務の目標のほかに、鐘ヶ江駅長が掲げているのは、個人としての目標だ。

「仲間を大切にし、仕事を楽しむ。前例にとらわれず、日々変革。選ばれる人財となるために、日々自分を磨く」

鐘ヶ江理恵駅長「私が入社したときは、改札が有人改札だったんですね、人が立っていてお客様から切符をいただいて。まさか、こんなに全部機械になっているっていうことは、想像できなかった。本当に30年後どんな世界になっているかっていうことは分からないので、自分の仕事がずっとあるわけではない。そう考えると、自分で生きる道は自分でちゃんと作っていかないといけないから、担当業務以外のことも勉強するんだよっていうふうに言っています」

鐘ヶ江駅長を、部下の社員たちは、どう見ているのか。

前田圭輔副駅長「行動力がある、で、我々を社員を導いてくれる上司だなって日々思っていますので、我々は必死に食らいついて、ついていってるって感じです」

山本大海助役「ほんとにゴールを示してくれて、それに向かって全員で同じ方向を向いて働ける環境を作ってくれているなと、日々思っています」

私達、刷り込まれています

鐘ヶ江駅長が、女性が働く「ロールモデル」として招かれる機会があった。その会で鐘ヶ江駅長が披露したのは、財務部で資金課長をしていた当時のエピソートだ。10歳年下の男性社員とペアで銀行を回っていた時のことだった。

鐘ヶ江理恵駅長「とある銀行さんで支店長が彼に質問をします。私は課長なので質問は全部、課長である私が答えます。それに対してまた支店長が彼に質問します、私が答えます、よくわからない三角関係の会話がずっと30分ぐらい繰り広げられていて、でも私はずっと男性の中にひとりぼっちだとか、そういう世界で生きてきたので、あんまり違和感がなかったですね。帰り、彼が、『どうして今の人は、課長が説明をして課長が答えているのに、質問を全部僕にするんでしょう。僕の方を向いて。おかしくないですか』って言われて、『私が女性だからね』って私は淡々と答えたんですけど、彼にしてみたらおかしい。私達、刷り込まれているんですね。それが普通なんだって思い込んでいたんです。でもそれじゃいけないっていうのを、10歳年下の男性に教えてもらえました」

鐘ヶ江駅長は、1997年入社。入社3年目と12年目に育児休暇を取得している。

鐘ヶ江理恵駅長「私、1回目の産休育休を取る前は、あんまり仕事をまかせてもらえないところがありまして。育休とって戻ってきたら、『この人、ちゃんと働くんだな』って思ってもらったのか、そこから普通に男性と同じように仕事をまかせてもらえたような気がしたんですね。それで、頑張らなきゃって思ったんです」

いま、博多駅の職場では、男性も育児休業を申請するようになってきたという。

鐘ヶ江理恵駅長「男性が育児休業5か月とったりしていますので、いま、まだ普通になってない中、彼らはえらいと思いますし、こういう人たちが増えて、どんどん普通になっていくんだなと思います。そういう意味では『普通がこれなんだ』っていうことを根付かせることが大事だと思っています」

人身事故の対応瞬時の判断を迫られる

2月27日、JR鹿児島線、東福間駅の構内で、人と特急列車ソニックが接触する人身事故が発生した。夕方のラッシュアワーにかかろうとする時間。緊張に包まれる。事故があった東福間駅を境にして、上下線とも列車が止まっている状態だ。



副駅長が拡声器で、改札前で情報を伝える。

「現在のところ、再開のめどはたっておりません」

情報室では、警察の現場検証がどれくらいで終わるか状況を見ながら、どの列車を運休し、どの列車を走らせるか、決めていく。列車を止めている間に、待つ人々でホームは一杯になってくる。博多駅で出発を待っている特急列車をいま走らせるか、運転再開になったときに走らせるか、難しい判断を瞬時に迫られる。いま特急を走らせると、途中で止まってしまう。鐘ヶ江駅長は、再開まで特急の出発を遅らせる判断をした。再開した時に、各駅で特急を待つ人たちを乗せていくのだ。

事故発生から1時間後、現場検証が終了したという連絡が入った。

アナウンス「お客さまにご案内いたします。東福間駅構内での人身事故につきまして、現場検証が終了し、随時運転再開の許可が出ております」

運転が再開されても、ダイヤが戻るまでには、さらに運休や行き先変更と同時に、乗務員の手配にも追われる。

情報室「いま1番線に入っている列車がいて、乗務員がいなくて、厳しいかもしれません」

列車の行き先を変更するなどして、徐々に乗客の流れがスムーズになってきた。

鐘ヶ江理恵駅長「この時間はどきどきするんですよ。夕通勤にあたると、お客さまのお時間を本当にとってしまうので。でもきょうはいつもよりはダイヤが戻るのは早かったんじゃないかと思います」