警察が到着後に1人殺害 命は守れなかったのか

裁判を傍聴して気になった点がある。法廷で流されたパトカーのドライブレコーダー映像についてだ。

当初、警察は、報道機関に対して事件の発生を、文書や記者への説明で次のように伝えていた。

「岩田さん方では、3人の男女が倒れていた」
「警察官が現場に臨場した際、家族3人は血を流して自宅敷地内に倒れていた」

パトカーのドライブレコーダー映像を見た限りでは、少なくとも、パトカーが到着した時点でアイ子さんは生きていて、玄関先に立ち、手を振っていた。そしてその後の音声には、アイ子さんの悲鳴のあとに、警察官の怒号が記録されていた。

正確に表現をするならば、アイ子さんが殺害されたのは「警察官が到着した直後」ということになるのではないだろうか。

警察の幹部数人に、裁判の経過を踏まえてこの疑問を投げかけてみた。ある幹部は、こわばった表情になったかと思えば、どこか少し怒ったような調子で答えた。

「それはそうだろう、捜査情報なのだから」

一体何が言いたいのか、といった調子だ。記者は、その真意を確認する。

「捜査に支障が出る可能性があるということですか?それにしても、報道対応の内容は、正確さを欠くものだったのではありませんでしたか」

言葉を交わす幹部の声が、次第に大きくなったように感じた。

「あの時は、ああして出すしかないではないか」

また、別の幹部数人に対しても同様の質問を投げかけてみた。ある幹部は、腕を組み思案したような様子を見せた。

「うーん…難しいな。俺が同じ立場だったら…どうやって報道対応していたかな。同じような内容で出していたんだろうか…」
「分からない、難しいと思う。『本店』の捜査方針だってあるだろうし、うかつなことを言いにくいということは、確かにあると思う。ただ、確かに正確さを考えた場合には…うーん」

状況を十分に把握できないままに現場へ駆け付けて、刃物を振りかざす男を正対した警察官に対して、何か非難をするつもりは毛頭無い。ただ警察は、なぜ事実を明らかにしなかったのだろうか。初動の対応は適切だったのだろうか。そして、アイ子さんの命を守ることはできなかったのだろうか。