狩猟免許保持者や林業従事者の減少 過疎化や高齢化も

シカ、イノシシ、クマ…。動物たちは森にかかわる人たちや、その周辺の中山間地域で暮らす人たちの減少を知っているかのようです。環境省によると、狩猟免許の保持者は1975年、51.8万人でしたが、現在(2019年)は21.5万人。当時の約4割に減っています。狩猟免許者の6割は60歳以上で、高齢化もすすんでいます。さらに林業従事者も減っています。農水省によると1960年には68万人いましたが、現在(2020年)約4万4000人に激減しました。こうして人が森に関わらなくなり、森の“不健全”化が進んでいます。それに加えて里山の過疎化による耕作放棄地の問題もあります。森や付近の田畑の管理が行き届かなくなり、動物たちの住処と人の居住地との境界がますます曖昧になっているのです。

“ナラ枯れ”急増の首都圏 倒木による事故も

先に述べた通り、かつて森は燃料となる木材を確保できるガソリンスタンドでもありました。実は、ナラ枯れも 、森の放置が関係しています。ナラ枯れとは、コナラなど広葉樹が次々と枯れることですが、近年、特に首都圏で急増していて、倒木による事故も起きています。ナラ枯れは、体長5ミリの昆虫「カシノナガキクイムシ」、通称「カシナガ」が幹に大量に入りこみ、病原菌であるナラ菌を増殖させ、水の吸い上げる機能を阻害して枯らす伝染病です。

“ナラ枯れ”拡大の背景にも森の放置が

京都府森林技術センターの小林正秀・主任研究員によると、カシナガが狙うのは、繁殖に適した弱った木。その弱った木が増えてしまったのです。ナラ枯れは日本に昔からある自然現象ですが、1980年代以降に拡大した原因は、私たちの生活の変化にあります。かつて風呂や食事に使っていた炭や薪ですが、1960年代からのエネルギー革命で、ほとんどは電気やガスに置き換わっていきました。木材がエネルギーとして使われなくなり、ナラなどの広葉樹は放置され、老木化が進んで弱体化。カシナガたちの格好のターゲットになったのです。

森の国の“守り人たち”が置かれた厳しい現状

獣害もナラ枯れも、森の放置が大きく関わっていることを理解いただけたでしょうか。これ以上の放置を防ぐためには、改めて、“森の国”日本という認識が必要です。その上で、森に関わりながら生計を立て、森を見守ってきた“守り人たち”が置かれた厳しい現状を改善する必要があります。例えば林業従事者の平均年収は、危険かつ重労働であるにも関わらず、他の業種より低く、343万円(2017年)。成り手が減ってしまった原因でもあります。それでは、私たちはどうすればいいのか。佐藤教授や小林研究員などの専門家や実践家を取材したTBSのドキュメンタリー映画「サステナ・フォレスト~森の国の守り人たち~」(3月中旬から東京・大阪・福岡・名古屋・札幌・京都で上映)は、こうした森の現状を映像で描き、対策を探っています。映画をきっかけに、“森の国”に住む私たち一人一人がじっくりと考えていけたらと願っています。

執筆者:TBSテレビ「news23」編集長 川上敬二郎