「サステナ・フォレスト」 “持続可能な森づくり”

“木の伐採”問題と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? 中古車販売大手「ビッグモーター」店舗前の全国の街路樹が枯れたり伐採されたりした問題でしょうか。それとも東京・明治神宮外苑の再開発をめぐる、数百本の樹木の伐採計画がどうなるか、といった問題でしょうか。森林政策の専門家に聞くと、「あまり報じられていない、さらにスケールの大きな森林伐採に関する問題がある」と指摘。『サステナ・フォレスト』、つまり「持続可能な森づくり」の視点が必要だと訴えています。一体、どういうことなのか。

川上敬二郎(TBSテレビ「news23」編集長、ドキュメンタリー映画『サステナ・フォレスト~森の国の守り人たち~』監督)

“森の国”日本で何が起こっているのか?

日本は、国土の7割が森林です。先進国では、サンタクロースを生んだフィンランド、家具のIKEAで有名なスウェーデンに次ぐ、まさに「森の国」です。ところが、九州大学の佐藤宣子教授(森林政策学)によると、「日本の森は今、非常に不健全な状況にある」と言います。

かつて森はコンビニでありガソリンスタンドだった

かつて森は、日本人にとってもっと身近な存在でした。必要なものが揃うコンビニであり、栗や茸やイノシシなどの食材が採れるスーパーマーケットであり、燃料となる木材が確保できるガソリンスタンドでした。人々は都市部の会社に出勤するのではなく、森に通い、様々なものを得ていたのです。でも、森の役割は大きく変わりました。建築用の木材を得るためにスギやヒノキが多く植えられましたが、海外から木材が大量に輸入され、国内の森は放置されるようになりました。その結果、今、森は深刻な状況にあります。多発する獣害のニュース、夏なのに森が赤く染まる「ナラ枯れ」の背景にも、放置の問題があるのです。

野生鳥獣による農作物の被害 4割はシカ

「なんでここにシカがいるの!?」。街に住む人がシカを目にして驚いたときの言葉です。ニュースでも報じられました。今、多くの野生動物が街や里にあらわれて、住民や農家に被害をもたらしています。農水省によると、2022年度の野生鳥獣による全国の農作物被害は約156億円。中でも全体の4割を占め、最も大きいのはシカによる被害です。

イノシシによるけが人は過去最多 捕獲数も20年で約4倍

シカの次に大きいのは、イノシシによる農作物の被害です。中山間地域の畑に監視カメラを設置すると、夜、入り込んで、キャベツを美味しそうに食べる様子が撮影されていました。さらに近年、イノシシが人に危害を加えるケースも目立っています。環境省によれば、イノシシによるけが人は、2022年度、過去最多の85人に上りました。獣害としてのイノシシの捕獲数は2000年代に入って、20年余りで約4倍に。昨年度は約59万頭が捕獲されています。

クマによる人的被害も過去最多 「指定管理鳥獣」に追加へ 

今年度、クマによる被害も過去最多になっています。環境省によりますと、去年4月から2月まで、クマの被害に遭った人の数は全国で218人(うち死者6人)に上りました。環境省の検討会は、絶滅のおそれが高い四国以外の地域で、クマを「指定管理鳥獣」に追加する対策案をとりまとめました。指定されれば都道府県がクマの捕獲などをする際に、国から補助金などの支援を受けられるようになります。

人を怖がらない「アーバンベア」 

クマによる人的被害が増えた理由として、ブナの実などの凶作が指摘されています。エサを求めて行動範囲が大きくなり、街に降りてくる危険性が高まりました。また、『アーバンベア』というクマの存在があります。アーバン(街)にもクマが出てきているのです。威嚇の爆発音にも動じず、車の通り過ぎる音にも反応しないケースも報告されています。クマは本来、警戒心が強いはずですが、人に慣れてきたのでしょうか。