家計部門が保有する預金

続いて本章では、家計預金比率の分子である家計部門が保有する預金を詳しく確認する。

1|信用創造

預金を資金調達主体に着目して分析するにあたってポイントとなるのは、調達主体がどの部門であれ経済全体の預金残高が増減するのは銀行(預金取扱機関)を介した資金調達による「信用創造」が行われる場合に限ることである(本稿では預金の創造・消滅をもたらす一連の活動を信用創造と言う)。

なお、家計部門が保有する「現金・預金」の内訳としては、定期性預金と流動性預金が大部分である。金利低下を受けて定期性預金の残高減少、普通預金や当座預金に代表される流動性預金の残高増加という変化はあるものの、両者を合計した金額はおおむね「現金・預金」の動きと類似しており、本章以降、預金としては定期性預金と流動性預金に限定して議論を進める。

本稿では大胆な仮定ではあるが、この信用創造行為のうち、預金取扱機関による貸出(資金循環統計上の「民間金融機関貸出」)と国債等の保有(資金循環統計上の「国債・財投債」)を預金創造の主要な経路と見なす。つまり、預金の創造経路を、貸出による要因と国債等の保有による要因に二分する。なお、こうした取引が預金を創造しないケースや、これら以外の信用創造経路(民間部門の預金を増減させる経路)も存在するが、これらはすべてその他要因とする。具体的には、資金循環統計における預金取扱機関の金融取引(フロー)の金融資産側増減のうち「民間金融機関貸出」と「国債・財投債」が金融負債側の預金を増減させる主要な取引と見なしている。

ここで貸出の場合は、通常、その金融資産(貸出)の保有者(つまり預金取扱機関)は満期が到来するまで変わらない。一方で、国債の場合は流通市場での売買によりその金融資産(国債)の保有者が変わりうる。このとき、保有者が誰になるかにより預金への影響は異なる。例えば国債の保有主体が預金取扱機関から家計に変わると、マクロの預金残高は減少する(家計が預金取扱機関に国債購入分の資金を支払うことで預金取扱機関の金融負債である家計保有の預金が減少する)。一方で、国債の保有主体が預金取扱機関から日本銀行に変わった場合には預金残高は変わらない。これは預金取扱機関の金融資産のうち(日本銀行の国債購入に伴い増減する)日銀預け金残高(日銀当座預金残高)を増加させ国債残高を減少させるものの、市中の預金残高は変化しない(預金取扱機関の金融負債には影響を及ぼさない)ためである。日本銀行は「銀行の銀行」であり、日本銀行と預金取扱機関の取引が「預金取扱機関の預金」を通じて行われるのではなく、「日本銀行の預金(日銀預け金、日銀当座預金)」を通じて行われるため、市中の預金残高(日銀預け金は含まれない)には影響を及ぼさない。

実際、01年以降には日本銀行による大規模な国債買入政策が実施されており、国債の保有者が預金取扱機関から日本銀行に大きくシフトした。つまり、預金取扱機関の金融資産の内訳を見ると、国債保有が減少し日銀預け金が増加した。しかし、これはマクロの預金残高を直接増減させる要因とはならない。そこで、本稿では預金取扱機関の国債が減少しても日銀預け金が増加していれば、預金残高には影響を及ぼさないと見なしている。つまり、信用創造経路である国債「等」に預金取扱機関の金融資産である「日銀預け金」を含めている。

さらに、預金には旧郵便貯金の「貯金」が含まれている(旧郵便貯金は預金取扱機関に含まれる)。この旧郵便貯金の貯金に対応する資産は財政融資資金を通じた国債購入や政府の活動(貸出等)である。このとき、旧郵便貯金は直接的に国債を保有しないが、財政融資資金を通じて政府部門に資金を提供していた。この(預金取扱機関の金融資産として計上されている)「財政融資資金預託金」も国債「等」の保有による信用創造に含めた。

資金循環統計における預金取扱機関の取引のうち上記の貸出と国債等(上記の信用創造経路)に着目して経済全体の預金残高の推移と対応させたものが図表13である(貸出については住宅貸付および消費者信用を一律家計向け、企業・政府等向けは一律企業向けとして分類している)。ここから、90年頃までは貸出が主な預金創造の経路であったが、その後は国債等の保有による信用創造が拡大してきたことが分かる。

2|預金の家計部門以外の部門での保有

信用創造は経済全体の預金残高を増減させるが、家計部門以外の部門も預金を金融資産として保有する。したがって、次式の通り家計部門が保有する預金残高は経済全体の預金残高の一部である。

家計部門が保有する預金 = 経済全体の預金 × 家計部門の預金保有シェア
= 創造された預金残高 ×(100% - 家計部門以外の部門の預金保有シェア)

実際に、経済全体の預金残高のうち家計部門が保有する比率を見ると、時期によってこの割合は変動しているものの、おおむね6割から7割の間で推移していることが分かる。

家計預金比率の変化

これまで見てきたように、家計預金比率の分母(家計部門が保有する金融資産)は家計部門の金融負債と家計部門以外の部門のネット金融負債の合計に一致する。分子(家計部門が保有する預金)は、信用創造で生まれた預金残高のうち家計部門が保有する部分(6割から7割程度)となる。本章では、これまでの議論を踏まえ、各要因が家計預金比率の変化とどのように関係しているのかを定量的に把握していく。

1|家計預金比率の分解

これまでの議論を踏まえて、家計預金比率は次のように変形できる。

家計預金比率の分解
 r:家計預金比率
 DH:家計部門が保有する預金(流動性預金+定期性預金)、A:家計部門が保有する金融資産
 D:経済全体の預金、sH=DH/D:経済全体の預金のうち家計部門が保有するシェア

したがって、家計預金比率の前年度差(Δr)は次のように近似できる(具体的な近似値を求めるにあたって残高にはすべて前年度末と当年度末の単純平均の数値を用いている)。

Σs:経済全体の預金のうち家計部門以外の部門の保有シェア(sH=1‐Σs、ΔsH=‐ΣΔs)
 CH:預金取扱機関の家計向け貸出で増減した預金、CC:同企業向け貸出で増減した預金
 CG:預金取扱機関の国債等保有で増減した預金、CO:その他要因で増減した預金(ΔD=ΣΔC)
 LH:家計部門の(グロス)金融負債、ΣΔF:家計部門以外の資金過不足(資金不足がプラス)
 ΣΔV:家計部門以外の調整額(ΔA=ΔLH+ΣΔF+ΣΔV)
 F、V、sの添え字はC:企業部門、G:政府部門、F:海外部門、O:その他部門(金融機関・民間非営利団体)を示している(社会保障基金は政府部門に含めた)。なお、ΣΔs、ΣΔC、ΣΔF、ΣΔVでは添え字の記載を省略した。

ここで、2行目(①式)は家計預金比率の変化(Δr)を預金保有シェア要因(Δs)、信用創造要因(ΔC)、資金過不足要因(ΔLH+ΣΔF)、時価等の要因(ΣΔV)の各項目でまとめており、3行目(②式)は各経済主体別にまとめたものである(ただし、時価等の要因は別にしている)。経済主体ごとの動きに注目すると、企業部門、政府部門のそれぞれにおいて資金調達(ΔFに相当)が預金取扱機関を介した調達(ΔCに相当、預金を生む調達)か、そうでないのかを確認できる。

企業部門や政府部門がネットで資金調達をすれば、これは家計部門が保有する金融資産の増加(分母の増加)を通じて家計預金比率を押し下げる(資金不足(ΔF>0)の場合であり、ΔFの係数がマイナスであることからΔr<0の要因となる。ただし、預金を増やす調達の場合(分子の増加)には、同時にこれは家計預金比率を押し上げる要因(ΔC>0の場合であり、Δr>0の要因となる。単純化すれば、預金創造を伴わない資金調達はΔF>0かつΔC=0、預金創造を伴う資金調達はΔF>0かつΔC>0である。イメージとしては前者がおおむね直接金融による調達に、後者がおおむね間接金融による調達(銀行を介した調達)に対応する。なお、時価等の要因は各部門の資金調達時点での活動から切り離して、まとめて別の要因とした。

以下ではこの3行目の式(②式)に則して、具体的に各要因の推移を見る。ここでは変化のトレンドを把握するために、5年間の変化(単年変化の5か年移動合計)を見ている。また、以下も含めて「要因」という言葉を用いているが、必ずしも因果関係を示すとは限らない点に留意する必要がある。

2|企業部門要因

まず、企業部門要因を確認する。

企業部門はおおむね一貫して家計預金比率を押し上げる部門となっている。ただしその押し上げ幅は時代によって異なる。企業部門は90年代ごろまでは資金不足主体であり(ΔF>0、ΔFの係数がマイナスであるため青の棒グラフはマイナス)、また銀行借入を増やし預金の増加要因にもなっている(ΔC>0、紫の棒グラフ)。しかし、バブル崩壊後の90年代後半には、企業部門は資金余剰主体に転じ、銀行借入も圧縮した(ΔF<0、ΔC<0、青の棒グラフはプラスに、紫の棒グラフはマイナスに転じた)。この間、家計預金比率への寄与はほぼゼロまで低下した。その後、2000年代後半以降は、企業部門は資金余剰主体のまま銀行借入を増やしている(ΔF<0、ΔC>0で青の棒グラフ、紫の棒グラフともにプラスとなった)。すなわち、企業部門は一貫して間接金融による資金調達が主であったことから、ここ20年ほどは家計預金比率を押し上げる方向に働いている。なお、資金余剰主体のまま銀行借入を増やしているのは、金融負債(借入等)を増やしつつ金融資産も増やしている(ネットでは金融資産の増加の方が大きい)ことを意味する。本稿では深掘りしていないが、手元流動性確保やM&Aといった目的で有価証券保有を増加させている可能性が考えられる。

3|政府部門要因

続いて、政府部門要因を確認する。

政府部門(社会保障基金を除く)は一貫して資金不足主体(ΔF>0、ΔFの係数がマイナスであるため青の棒グラフはマイナス)であり、国債発行により他部門から資金を調達してきた。国債等にかかる信用創造要因(紫の棒グラフ)を見ると、2000年代半ばから10年代初頭および直近の期間を除いて預金残高を押し上げている(ΔC>0、紫の棒グラフがプラス)。資金調達(ΔF>0)と預金創造(ΔC>0)はそれぞれ、預金比率の引き下げ要因と引き上げ要因となるが、80年代から90年代ごろは総じて預金創造による押し上げ効果が優勢であった。その後、2000年代ごろは押し下げ効果が優勢となり、再び10年代半ば以降に押し上げ効果が優勢となっている。つまり、政府部門は主要な資金調達主体であるが、預金の増加に伴う調達かは時期によって大きく変化してきたと言える。

注目すべき点として、直近の国債等にかかる信用創造要因が再びマイナスになった(紫の棒グラフがマイナスになった)点が挙げられるだろう。これは、足もとでの国債の保有主体が日本銀行・預金取扱機関からその他の部門に移っていることと整合的であり、日本銀行が保有国債の削減を進めているが、預金取扱機関の保有増で吸収しきれていないことが背景にある。

4|海外部門要因

続いて、海外部門要因を確認する。

海外部門は一貫して資金不足主体であり(ΔF>0、ΔFの係数がマイナスであるため青の棒グラフはマイナス)、家計預金比率の引き下げ要因となってきた。これは実体経済に関する対外活動が経常収支黒字であることが背景にある。つまり、実体経済で得られた所得(経常収支黒字)が、対外証券投資や対外直接投資などとして、海外の金融資産購入に充てられていることを意味している(これが日本全体の対外純資産の総額を増やすため、家計預金比率の押し下げ要因となる)。

5|時価等の要因

続いて時価等の要因(調整額の変化)を経済主体別に確認する。

預金には原則として時価変動がないため、時価変動は預金以外の金融資産残高に影響する。つまり、時価等の要因は、家計部門が保有する預金のベースとなるマクロの預金残高に影響を及ぼさない。他方で、分母の金融資産残高は増減させる。なお、時価の上昇は家計預金比率の押し下げ要因で、時価の下落は預金比率の押し上げ要因となる(金融負債の時価上昇の場合はネット金融負債を増加させるためΔV>0、ΔVの係数がマイナスであるためΔrの押し下げ要因となる)。

家計預金比率への時価等の要因の年別推移を見ると、企業部門の時価変動要因が目立っており(多くが株式の時価変動と見られる)、これが80年代後半や10年代以降における家計預金比率の押し下げに寄与している。また、20年以降においては金利上昇による国債価格の下落を反映する形で政府部門の時価変動要因も目立っている。足もとでは、企業部門、その他部門、海外部門の押し下げ要因と政府部門の押し上げ要因の双方が存在しているが、全体ではやや押し下げ寄与の方が大きくなっている。時価等の要因は、資金調達主体からではなく、素直に家計の保有資産の時価変動(調整額)を見ると分かりやすく、足もとでは、株式・投資信託の時価増加が家計預金比率の押し下げ要因となっていることが分かる。

4|海外部門要因

続いて、海外部門要因を確認する。

海外部門は一貫して資金不足主体であり、家計預金比率の引き下げ要因となってきた。これは実体経済に関する対外活動が経常収支黒字であることが背景にある。つまり、実体経済で得られた所得(経常収支黒字)が、対外証券投資や対外直接投資などとして、海外の金融資産購入に充てられていることを意味している(これが日本全体の対外純資産の総額を増やすため、家計預金比率の押し下げ要因となる)。

5|時価等の要因

続いて時価等の要因(調整額の変化)を経済主体別に確認する。

預金には原則として時価変動がないため、時価変動は預金以外の金融資産残高に影響する。つまり、時価等の要因は、家計部門が保有する預金のベースとなるマクロの預金残高に影響を及ぼさない。他方で、分母の金融資産残高は増減させる。なお、時価の上昇は家計預金比率の押し下げ要因で、時価の下落は預金比率の押し上げ要因となる(金融負債の時価上昇の場合はネット金融負債を増加させるためΔV>0、ΔVの係数がマイナスであるためΔrの押し下げ要因となる)。

家計預金比率への時価等の要因の年別推移を見ると、企業部門の時価変動要因が目立っており(多くが株式の時価変動と見られる)、これが80年代後半や10年代以降における家計預金比率の押し下げに寄与している。また、20年以降においては金利上昇による国債価格の下落を反映する形で政府部門の時価変動要因も目立っている。足もとでは、企業部門、その他部門、海外部門の押し下げ要因と政府部門の押し上げ要因の双方が存在しているが、全体ではやや押し下げ寄与の方が大きくなっている。時価等の要因は、資金調達主体からではなく、素直に家計の保有資産の時価変動(調整額)を見ると分かりやすく、足もとでは、株式・投資信託の時価増加が家計預金比率の押し下げ要因となっていることが分かる。

まとめ

上記で見た変動要因をまとめたものが図表22である。10年以降の特徴を述べれば、企業部門が一貫して家計預金比率の押し上げ要因、海外部門と時価等の要因が家計預金比率の押し下げ要因となってきた。これら双方の要因がおおむね釣り合っており、家計預金比率は横ばい圏の動きになっていたと言える。直近で家計預金比率は低下しているが、これは企業部門の資金余剰や銀行借入増加による押し上げ要因を、海外部門と時価等の要因による押し下げ要因がやや上回り、さらに政府部門も押し下げ要因を強めたためである。

同じく10年以降の特徴を述べれば、資金過不足要因がマイナス、時価等の要因がマイナスとなっている一方、信用創造要因(ΔC>0)がプラスとなっている。20年代初頭まではこれらのマイナス要因とプラス要因が拮抗していたものの、足もとは信用創造要因のプラス幅縮小や時価等の要因のマイナス幅拡大によって、マイナス要因が優勢となっている。信用創造要因のプラス幅縮小は、前述の通り、国債の保有主体が日本銀行・預金取扱機関からその他の部門に移っていることが背景にある。

これまでの分析を通じてこれを解釈すれば、「家計預金比率を資金調達主体の側からマクロの視点で分析すると、預金取扱機関を介した企業部門の借入に伴う預金創造(つまり間接金融での調達)による家計預金比率の押し上げ要因を、経常収支黒字に伴う対外資産の増加や株価などの時価上昇による押し下げ要因が上回ったことで低下している。加えて、日本銀行の国債保有削減とともに、国債の保有主体が日本銀行・預金取扱機関からその他部門に相対的に移っていることも家計預金比率の低下を後押ししている」と言えるだろう。

冒頭のコラムでは「貯蓄から投資へ」を「家計の保有金融資産に占める預金割合の低下」として捉えたとき、日本でこれが進んでこなかった背景には家計の資産選択・選好だけでは説明できないマクロ的な理由がある、と述べた。これは家計の資産選択や選好が家計預金比率の変動に影響を及ぼさない、という意味ではない。例えば、家計の株式などのリスク性資産に対する選好が強まることで、株価が上昇したとすれば、これは家計預金比率を低下させる要因となる。今回見られた時価の増加による家計預金比率の押し下げも、家計の選好変化が影響している可能性がある。ただし、こうした家計の選好変化によって家計預金比率が変動する場合も、これまで見てきたようなマクロの資金循環構造の変化は生じる。それだけに今後、継続して「貯蓄から投資へ」が進むのか、その場合にマクロの資金循環構造がどう変化するのかが注目される。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員 高山 武士 )