余剰を売れ残りではなく、別チャネルへ移す
同社は2026年1月末から、新宿・渋谷エリアを中心とする10店舗で、外部の食品ロス削減サービスToo Good To Goを活用した取り組みをテスト導入した。その日の販売状況に応じて、6個のドーナツを詰め合わせたサプライズボックスを、通常価格の約半額で販売する仕組みである。
このケースで注目したいのは、同社が対象商品を単なる処分販売として扱わず、ブランド体験の一部として位置づけた点である。
広報担当の佐々木氏は、次のように語る。
「売れ残りを売るというより、Too Good To Goという別チャネルで販売しているという感覚です。売られている商品そのものも、通常の商品と何ら変わりません」
扱っているのは、通常販売しているものと同じドーナツである。ただし、顧客は中身を選ぶことはできない。販売時間帯やセット数にも制約がある。その代わりに、何が入っているか分からないワクワク感を楽しめる設計になっている。
箱を開けるまで中身が分からない体験は、同社が大切にするLittle Joy、つまり「小さな喜び」とも重なる。サプライズボックスは、フードロス削減にとどまらず、ブランドらしい楽しさを伴う顧客接点にもなっている。食品ロス削減の文脈でありながら、顧客に強い環境配慮や我慢、節約を求める設計ではないのが特徴だ。
結果として、導入から1カ月で、対象店舗のフードロスは約3割削減されており、この結果を受け、同社は2026年3月23日から東京都内の店舗へ順次拡大している。
なぜ値引き販売に見えなかったのか
前述の通り、飲食店や小売店にとって、値引き販売には慎重にならざるを得ない面がある。価格を下げて販売することが、売れ残った商品という印象につながったり、ブランド価値を下げたりする懸念があるためだ。
佐々木氏は、導入前の不安について次のように語る。
「これまでは、お客様が選んだものを買ってもらうのが基本でしたので、こちらが選んだものを入れてサプライズという形で販売するのは、どうなるのかな、と社内で考えられていた時もありました」
実際には、顧客側に別の受け止め方が生まれたという。
「結果として、開けてみてワクワクできる体験として顧客からは受け止められました。当社としても、箱を開けたときに思わず『わぁ!』と声をあげて喜んでいただけるような、ワクワクする体験は重要です。シンプルなフードロスだけでなく、ポジティブなイメージが付与できる点が魅力で、ブランドとのマッチも感じられました」
この取り組みは、サステナブル・マーケティングの視点では、値引きによる処分販売というよりも、余剰となりそうな商品を、限定性とサプライズ性を持つ別チャネルへ転換したものと捉えられる。食品ロス削減を、ブランド体験を損なう活動としてではなく、ブランドらしい楽しさを生む接点として設計した点に特徴がある。
つまり、価格を下げる理由と体験の見せ方を工夫し、顧客が参加したくなる理由を生み出せれば、食品ロス削減はブランド価値を毀損するどころか、新しい接点を生む可能性があるとも言えるだろう。
廃棄削減が、新規顧客との接点にもなる
導入後の成果について、佐々木氏はこう語る。
「導入から1カ月で3割のフードロス削減につながったという結果になりました。現在も引き続きその水準をキープしています。廃棄コスト削減とともに、売上が上がるという点は経営的なメリットの一つです」

さらに、想定外の効果もあったという。
「データを見ると、サプライズボックスを購入した方の4割が新規のお客様でした。これは意外な発見でした。そこで初めてブランドに触れたお客様が、その後、また食べたくなったと、普通に来店するようになったのは成果です。」と佐々木氏は語る。
食品ロス削減は、廃棄量を減らすだけでなく、新たな顧客との接点にもなりうる。社会性のある施策をブランド体験として組み立てることで、店舗、顧客、ブランドの関係が広がっていく様子がうかがえる。
また、社内への波及も見逃せない。同社の店舗では、賞味期限を迎えて毎日廃棄されるドーナツをどうにかできないかという声が、従業員から以前より上がっていたという。外部サービスの導入後は、廃棄されるはずだった商品が売上につながり、フードロス削減に参加できている実感や、新しい取り組みの先駆けになっているという前向きな受け止めも生まれている。
つまり、食品ロス削減の取り組みは、現場で働く従業員にとっても、捨てるしかなかったものを顧客に届けられるという納得感につながりうる。事業系食品ロス対策を持続可能なものにするには、顧客にとっての参加しやすさと同時に、現場で働く人々が意味を感じられる設計も重要になる。
食品ロス対策は、ブランドと価格と顧客体験の設計課題でもある
事業系食品ロス対策は、正しいことだから取り組むべきだという訴えだけでは広がりにくい。事業者側には、ブランド毀損、価格下落、通常販売への影響、現場負荷といった現実的な懸念がある。こうした懸念を理解したうえで、導入しやすい仕組みに読み替える必要がある。
もちろん、一般論として、余剰そのものを抑えるには、需要予測や発注精度の改善が基本となる。今回のような外部サービスの活用は、それらを補完する実装手段として捉える見方もあるだろう。
また、今回取り上げたケースのような取り組みが、すべての商材に同じように適用できるわけではない。ドーナツのように、サプライズ性や福袋的な体験と相性のよい商材では機能しやすい。一方で、アレルゲン、嗜好性、鮮度、品質保証がより厳しく問われる商材では、より慎重な運用が求められる。
それでも、KKDJの取り組みは、食品小売・飲食事業者にとって示唆を含んでいると言える。食品ロス対策は環境施策であると同時に、ブランドと価格と顧客体験の設計課題でもある。余剰を単なる売れ残りとして見せるのではなく、限定性や体験価値を伴う別チャネルとして位置づけることで、顧客が前向きに参加できる余地が生まれる。
また本稿のケースの様な「サプライズバッグ型」の食品ロス削減モデルについては、近年、経営科学の領域でも研究が進みつつある。ある研究では、サプライズバッグ型の余剰食品販売を、店舗利益、店舗廃棄、消費者廃棄、総食品ロスの観点から分析し、店舗側の廃棄を減らしやすい一方で、消費者側の廃棄や生産量増加を通じて、総食品ロスが増える場合もあると指摘している。

この点は、食品ロス対策を「店舗で捨てない仕組み」としてだけでなく、「顧客が受け取り、食べきり、前向きに参加できる仕組み」として設計する必要性を示しているとも言える。つまり、単に余剰を販売することのみならず、商品特性、数量設計、受け取り導線、ブランド体験を一体で、消費者の手元で捨てられる食品ロスも含めて考えていく必要があるとも言える。
食品ロス削減を、顧客接点としてどう設計するか。これからの企業の社会貢献とサステナブル・マーケティングの実装を考えるうえで、一つの手がかりになるとも言えるのではないだろうか。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員 小口 裕)