買戻しを判断する条件

令和8年産米の供給余力

買戻しの是非は、過去にどれだけ放出したかだけではなく、供給余力と在庫構成によって決まる。

まず令和8年産米の需給見通しを確認する。令和8年産の主食用米と備蓄用米を合わせた生産量見通しは740万トンで、基本指針の主食用需要見通し最大711万トンを上回る。令和8年産備蓄米の政府買入入札は、第4回までに約21万トンが落札された。これを差し引くと、主食用米として市場に出回る数量は約719万トンとなり、基本指針の主食用需要見通し最大711万トンを約8万トン上回る。さらに、令和8年5月末の民間在庫は223万トンと前年同月比75万トン増で、令和8年6月末も221~234万トンと見込まれている。令和8年産米の需給見通しや直近の民間在庫を数量面からみれば、一定の供給余力は確認できる。ただし、数量上の余裕が直ちに市場で利用可能な供給余力を意味するわけではなく、販売契約の状況や流通上の制約も踏まえて判断する必要がある。

備蓄米の年産構成

棚上備蓄方式では、従来通りの買入が行われていれば、5年程度保管後に飼料用等へ販売する運営が基本である。令和7年産米の買入が通常通り行われていれば、令和2年産米は制度上すでに飼料用米等への販売時期を迎えている。令和2年産米の15万トンは、本来予定されていた飼料用等への販売が凍結されている。令和3年産米も、令和8年産米と入れ替わる形で飼料用米等として販売されるはずの年産である。

筆者が確認した範囲では、5年経過後の食味劣化を定量的に示す研究結果は見当たらない。しかし、3年経過米の放出にはメッシュチェックを必須としたことや、消費者の古い年産米に抱く心理的な抵抗感を踏まえれば、主食用米としての活用には一定のハードルがあると推察される。

したがって、令和7年の大規模放出後は、「減った備蓄を戻す」だけでなく、本来更新時期を迎えた年産米の更新要否も検討すべきである。6月末時点で民間在庫が潤沢であれば、備蓄水準の回復に加え、年産構成を正常化するため、一定量について、既存契約に基づく買戻し、または新たな備蓄米買入れを行うことを検討する合理性はある。

買戻し条件は必要か

買戻し条件は、生産者や流通側には将来需要を示すことで価格の急落を防止する安心材料となる。一方、消費者には、政府買入れが将来の需要として織り込まれれば、価格低下が緩やかになる可能性があるため、価格下支え策と受け止められやすい。今回の備蓄米放出が流通・価格対策として行われた以上は、市場価格に影響を及ぼす買戻し条件の設定は慎重に行うべきであった。

備蓄水準の回復は食料安全保障上必要であり、買戻し条件そのものを否定すべきではない。ただし、放出時点で同量・短期間の買戻しを一律に固定すれば、将来の政府需要が市場に織り込まれ、価格形成に影響を及ぼす可能性がある。今後は備蓄残高、年産構成、民間在庫、生産量見通し、需要動向を見ながら、買戻しの時期と数量を臨機応変に判断する必要がある。