(ブルームバーグ):今年のサッカー・ワールドカップ(W杯)が11日、開幕した。米国とカナダ、メキシコの16都市で、1カ月以上にわたって熱戦が繰り広げられる。開催都市では例年以上の猛暑が予測され、うだるような午後や夕方の試合が続く選手にとっては、暑さとの戦いもある。
3カ国で開かれるだけに、どこで試合があるかによって気象条件は大きく異なり、激しい気温差にいかに適応できるかも勝負を分ける要因になる。
ブルームバーグが開催都市の過去の気温や湿気のデータを分析したところ、暑さについてはチームによって運や不運がありそうだ。最も暑い中での試合を強いられそうなのはチュニジアで、その次に厳しいのは前回W杯で準優勝したフランスだ。
一方で、最も涼しいスケジュールが組まれていそうなのはウズベキスタン。試合が予定される一部の都市は酷暑が予想されるものの、ヒューストンなどのスタジアムは冷房完備で、摂氏22度の快適な気温に保たれる見通しだ。日本もグループステージ3試合のうち2試合がエアコンのあるスタジアムで、比較的恵まれた部類に入る。ただ、こうしたエアコンを備えたスタジアムで行われる試合は、全体の約2割でしかない。
マイアミのピッチでは陽炎が立ち、フィラデルフィアはスタジアム全体を熱波が覆う。カンザスシティーでは疲れた選手たちの足に暑さが追い打ちを掛けるだろう。開催都市やキックオフの時間によっても暑さの性質は変化し、出場48チームそれぞれに異なる形で試練を与えることになる。
試合日程で最も暑さが厳しくなりそうなチュニジアは、「欧州などの国よりも、選手は暑さ慣れしているかもしれない」と、2025年にW杯日程の暑さリスクに関する研究を共同執筆した英クイーンズ大学ベルファスト校のドナル・マラン上級講師は語った。
だが、暑さに慣れたチームでも、39日間に及ぶ大会が進むにつれてダメージを負うのは「ほぼ間違いない」と同氏は指摘。「暑さの繰り返しが時間とともに蓄積され、疲労が重なっていく」と述べた。
ブルームバーグは、湿球黒球温度(WBGT:暑さ指数)に基づき分析した。同指数は気温と湿度が人体に与える複合的な影響を考慮するため、暑さによるストレスレベルを評価する上で広く利用されている。地球の平均気温が上昇を続ける中で、暑さ指数が最高の危険レベルに達することがますます頻繁に起きている。
この分析ではまた、スタジアムの場所やキックオフ時間、過去十年の天候、空調設備の有無などの要因も加味した。
チームが向き合う試練は、単に暑さだけではない。試合ごとに著しい気温差に直面し、大きく異なる気象条件下で試合に臨まなければならないチームも出てきそうだ。日本がグループステージで対戦するオランダは最大12.8度の気温差に見舞われる可能性がある一方、ウズベキスタンは1.1度程度で済むかもしれない。
暑さに対する懸念から、国際サッカー連盟(FIFA)は試合中の給水タイムを義務付けた。また、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)は、暑さ指数が約28度を超える場合には試合延期を推奨している。FIFAは声明で、試合当時の選手の要望に応じ、飲料の提供や冷却タオルの配布、日陰の確保など追加措置を講じていくと説明した。
だが、FIFAの現行の対策では不十分で、選手は「懸念される水準の暑熱ストレス」にさらされる恐れがあると、医師や気候を専門とする科学者、暑熱の専門家は警告している。
インペリアル・カレッジ・ロンドンと国際気候研究グループ「ワールド・ウェザー・アトリビューション」の科学者による別の分析は、予定されている試合のおよそ4分の1が、人体の冷却機能にストレスを与え始める暑さとなる都市で開催される見通しであることを明らかにした。
この分析で、暑さ指数が28度に達する可能性が高いとされた試合は5試合に上った。さらに、過去10年間における各スタジアムの最高気温を基準にすると、その該当数はさらに増えるという。
FIFAは今大会に向け、3分間の給水タイムなど義務付けるなどのの暑さ対策をとった。だが、21人の科学者は13日付の書簡で、「意味のある効果をもたらすには短すぎる」と指摘し、少なくともその2倍の長さが必要だと主張した。また、試合延期や中止の判断を主催者任せにするのではなく、FIFPROが提案する暑さ指数の基準を採用するようFIFAに求めた。
プレーの質は確実に落ちる
科学者によれば、暑さは身体に大きな負担を与え、選手が最高のパフォーマンスを発揮する能力を制限する。
シドニー大学の熱・健康研究センターのオリー・ジェイ所長は、人間の体は暑くなると熱を逃がすため血液を皮膚へ送り、筋肉に供給できる血液量が減少すると説明する。
さらに、発汗による脱水で血液中の血漿(けっしょう)が減り、体内の総血液量が低下する。その結果、心臓は筋肉に酸素を運ぶためにより強く働かなければならなくなる。
これまでの研究によると、気温が上昇すると選手の走行速度は低下し、爆発的な動きが減って、ボールタッチ数やパス数、ボール奪取も減る傾向があることが分かっている。
一部のリーグでは、暑い試合ほどパス成功率が上昇した例も確認されている。これはパスが成功しやすくなった一方で、より安全で、遅く、ダイナミズムに欠ける試合となっている可能性も示唆する。
「単純に、選手たちは良いプレーができなくなる」とジェイ氏は述べた。
若く健康な選手が暑さにやられるとファンはあまり心配していないかもしれないが、「応援するチームの選手たちがいいプレーを見せることなく敗退すれば、気になるはずだ」と語った。
トップアスリートであっても、危険なほど体温が上昇する可能性がある。めまいや吐き気、疲労で始まり、適切な処置が行われなければ、生命を脅かす恐れのある熱中症へ進行する場合がある。重症化すれば後遺症が残ることもあり、将来的に再び重度の熱中症を発症するリスクも高まる。
各チームは、ヒートテントを利用しているイングランドのように、試合会場に近い環境でトレーニングを行うことで対策を進めている。FIFPROの医療責任者ヴァンサン・グッテバルジュ氏によると、暑さへの適応は最短で2週間程度で可能だが、日程の都合で全ての選手がその期間を確保できるわけではないという。
空調設備の整ったスタジアムで試合を行うとしても、選手にとって必ずしも万全とはならない。2022年のカタールW杯では、ブラジルの選手が体調不良を訴え、その原因としてスタジアムのエアコンを挙げていた。
原題:Some World Cup Teams Will Face a Much Hotter Tournament(抜粋)
--取材協力:Tim Loh、Demetrios Pogkas、Sharon Chen.記事に関する記者への問い合わせ先:New York Emma Court ecourt1@bloomberg.net;New York Elena Mejia emejialutz@bloomberg.net;New York David Ingold dingold@bloomberg.net;London Joe Wertz jwertz9@bloomberg.net記事についてのエディターへの問い合わせ先:Olivia Solon osolon2@bloomberg.netChloe Whiteaker、Kira Bindrim
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.