・欧州委員会(以下「委員会」)は中国アリババの海外通販プラットフォームであるAliExpressに対してデジタルサービス法(Digital Services Act、以下「DSA」)違反があったとして5億5000万ユーロの制裁金を賦課した。違反行為は大きく2点ある。
・ひとつめの違反行為として、委員会はAliExpressが、違法、危険または偽の商品を販売しないためのリスク評価義務を怠ったとする。監視員の配置が不十分であったり、違法商品を推奨してしまうシステムの評価を怠ったりしたとの理由が挙げられている。
・ふたつめの違反行為として、委員会はAliExpressが、違法商品販売のリスクを軽減するための効果的な対策をとることを怠ったとする。違反商品を検出するシステムが不十分で、悪意のある販売者が容易に監視システムを回避できたなどの理由が挙げられている。
欧州委員会による制裁金決定の理由
2026年7月20日、欧州委員会(以下「委員会」)は中国アリババの海外通販プラットフォームであるAliExpressに対して、デジタルサービス法(Digital Services Act、以下「DSA」)に違反して、違法商品の販売を行わないためのリスク評価及びリスク軽減の措置義務を怠ったとして、5億5000万ユーロ(約1020億円)の制裁金を課すことを決定し、公表した。
公表資料によると決定理由は以下のとおりである。
まず、委員会はAliExpressが、違法、危険または偽の商品を販売しないことのリスク評価義務を怠ったとする。具体的には、以下のとおりである。
(1) 違法商品の検出に十分な数の担当者を配置しているかどうかを検討しなかった。AliExpressは違法商品を検出し、出品を削除するための自社システムの有効性を過大評価し、労働負荷と担当者数の乖離を考慮しなかった。
(2) 推奨システムが違法商品の拡大を悪化させていることを十分に評価しなかった。委員会の検証によると多くの違法商品の出品が削除される前に消費者に推奨されていることが判明した。
(3) 評価における量的指標を欠いていた。AliExpressは唯一の量的指標に依存していたが、この指標は違法商品がプラットフォームに掲載されるリスクを防ぐシステムを運営するものとしては適切とは言えなかった。委員会による検証でも、AliExpressのコンテンツ修正のための措置(moderation efforts、違法商品の出品を削除するための措置)にもかかわらず、多くの違法商品が販売されていたことが確認された。
次に、委員会はAliExpressが、違法商品販売のリスクを軽減するための効果的な対策をとることを怠ったとする。具体的には以下のとおりである。
(1)違法商品を検出するシステムが適切に稼働しなかった。偽造品、安全でない玩具、危険な化粧品といった多くの違法商品が販売されており、仮に違法商品として検出されたとしても商品掲載の削除まで数週間を要していた。
(2)違法商品を販売した販売者に対して適切なペナルティを科さなかった。ペナルティ規約は不十分であり、ペナルティを受けた販売者であってもAliExpressのプラットフォームで引き続き販売活動が可能であった。
(3)AliExpressの商品チェックはカテゴリー変更をすることで容易に回避ができた。AliExpressの商品を判定する担当者数は不足しており、カテゴリー変更を検知するシステムが適切に稼働していなかった。したがって悪意のある販売者はより緩い基準が適用されるカテゴリーへ変更することで、規制を遵守していない商品であっても販売を継続することができた。
(4)偽造品の拡散を十分に防ぐことを怠った。偽造品はAliExpressの重大なリスクのひとつである。偽造品の販売は消費者の権利を阻害する。これに加え、デザイン、安全テスト、革新に投資してきた合法的な事業者が、これら投資を回避した事業者との価格競争に直面することとなる。AliExpressの偽造品を防止するための正規品証明(brand authorization)システムは非効率かつ人員が足りていない。販売業者はこのシステムの回避が容易で、出品削除されるとしても時間を要していた。
AliExpressはDSA上、Very Large Online Platform(超巨大オンラインプラットフォーム、以下「VLOP」)に指定されている。VLOPは月間4500万人以上のユーザーがいるプラットフォームが指定の対象となる(DSA33条1項)。
VLOPの義務としては、システミックリスクを特定・分析・評価し、抑制措置をとることである(DSA34条1項)。ここでいうシステミックリスクとは、サービスを通じた違法コンテンツの流布や消費者に対する悪影響などを指す(同項)。本事案における偽造品などの販売は違法であり、かつ消費者権利を侵害するものとしてシステミックリスクに該当する。また、システミックリスクの特定等にあたっては、たとえば以下を考慮することとされる(DSA34条2項)。
・推奨システムおよびその他の関連するアルゴリズムシステムの設計
・提供者のコンテンツ修正システム(違法コンテンツを排除するシステム)
したがって本事案はDSAの想定する違反の典型事例であったと考えられる。
なお、類似の事例として中国発の海外向け通販プラットフォームであるTEMUに対しても違法商品の販売リスクに関するVLOPの義務違反があるとして2億ユーロ(約370億円)の制裁金が賦課されている。
このようにDSA33条、34条は個々の違法商品の販売事例を対象とするものではない。プラットフォーム提供者に対して自身でリスクを適切に特定・評価し、軽減措置をとるというシステムの導入を求め、そのシステムが適切に運営されているかについて法的評価を行う。これは日本では見られない発想であり、今後の日本の制度設計の参考となる事例として有益である。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登 )