5年にわたる高インフレが、米金融当局者の忍耐を試している。利上げを急がず様子を見るべきだとの声がある一方、もはや時間的な余裕は乏しいとの見方もある。

連邦公開市場委員会(FOMC)が先月、政策金利を据え置いた後、金融当局者の間では、近く利上げに踏み切るべきだとの見方が少数派ながら広がっていることが、当局者の最近の発言からうかがえる。FOMCで投票権を持たない一部のメンバーも、小幅な利上げを主張して反対票を投じた3人に同調している。一方、多数派は、インフレが自然に鈍化する可能性がなおあるとみている。ただ、物価ショックを一時的なものとして様子を見る余裕は、次第に乏しくなっている。

米連邦準備制度にとっては、これまで何度も直面した難しい局面だ。時期尚早の利上げは労働市場を弱める恐れがある一方、対応が遅れれば物価上昇圧力が定着しかねない。7日に発表された雇用統計で7月の雇用者数が予想外に減少したが、議論の行方が明確になったわけではない。

BNPパリバの米国担当チーフエコノミスト、ジェームズ・エゲルホフ氏は「実際にどちらの状況になっているのか、データからははっきりしない」と指摘した。インフレ抑制に目立った進展がないことを踏まえ、連邦準備制度に行動を求める「圧力が強まっている」とも述べた。

7月の雇用者数が減少したほか、6月と5月分はいずれも下方修正され、労働市場の潜在的な弱さへの懸念が再燃している。統計発表後、リッチモンド連銀のバーキン総裁は、米労働市場が過去1年半と同様に「弱い均衡」の状態にあるようだとの認識を示した。

リッチモンド連銀のバーキン総裁

市場の関心は今後、9月のFOMC会合までに発表されるインフレ指標に移る。来週には消費者物価指数(CPI)が発表される予定だ。

6月に公表された経済見通しによると、米金融当局者はインフレ率が2028年までに目標の2%へ低下するとみている。ただ、6月のCPI上昇率が3.5%、連邦準備制度が重視するインフレ指標の米個人消費支出(PCE)価格指数で、食品とエネルギーを除くコア指数が3.3%上昇に達するなか、目標を実現できるのか懸念が強まっている。

当局者間の議論はすでに表面化しているが、ワイオミング州ジャクソンホールで開かれる連邦準備制度の年次経済シンポジウムに向け、今後数週間でさらに活発になる見通しだ。シンポジウムでは連邦準備制度理事会(FRB)のウォーシュ議長が講演を行う。ウォーシュ氏がこれまで明言を避けてきた今後の金利の行方について、手がかりが示されるか投資家は講演に注目する。

据え置きか、利上げか

FRBのクック理事は5日の講演で、早すぎる利上げは労働市場に悪影響を及ぼす恐れがあり、インフレ圧力が緩和し始めれば利上げは不要かもしれないとの見解を示した。

クック氏は、関税の影響が薄れつつあることに加え、原油価格やAI投資に伴う物価上昇圧力も弱まるとの見通しを挙げ、「すでにディスインフレの動きが出ている」と述べた。

ダラス連銀のローガン総裁

一方、7月に0.25ポイントの利上げを求めて反対票を投じた3人にとって、インフレ率が2%を上回る状態が続くことは、1カ月たりとも看過できない。ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁、ダラス連銀のローガン総裁、クリーブランド連銀のハマック総裁はいずれも、利上げを先送りすれば、後により大幅な金融引き締めが必要になる可能性があると述べている。

さらに、カンザスシティー連銀のシュミッド総裁は4日、「需要と投資の強さを踏まえると、現在の金融政策スタンスは景気抑制的だとは思わない」と述べ、インフレを抑えるため一段の金融引き締めを支持する考えを示した。

FRB信認に懸念

こうした議論で目立つのが、ウォーシュ氏の発言の少なさだ。今後の金利の道筋について市場に方向性を示すことに消極的で、経済情勢をどうみているのかも分かりにくくなっている。7月のFOMC会合後、ウォーシュ氏は物価安定への決意を改めて強調したものの、どのように実現するのかについて具体的な説明を避けた。

これを受け、投資家は米長期国債を売り、金融市場が織り込む期待インフレ率は上昇した。

アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミスト、トルステン・スロック氏は、「現時点では、もはや経済データだけの問題ではなく、連邦準備制度の信認も問われている」と指摘。さらに「インフレ率は2021年から目標を上回っている。世界で最も重要な中央銀行としては、これほど高いインフレが続く期間はあまりにも長い」と述べた。

状況がより明確になるまでは、意見が割れるFOMCを注視する市場関係者は、さらに反対票が出る事態に備えることになりそうだ。

ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は「FOMC声明が必要最小限の内容にとどまり、ウォーシュ氏の考えも不透明なため、各メンバーが金融政策についてどのような立場なのか、見極めるのが一段と難しくなっている」と語った。

原題:Fed Split on Rate Hikes Deepens as Inflation Tests Patience(抜粋)

--取材協力:Enda Curran、Catarina Saraiva.

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