三つの要因が絡み合って進まない財政の健全化

次に財政健全化が進まない要因を分けて整理したい。具体的には、(1)危機対応、(2)高金利による政府の利払い負担、(3)政治的要素の三つだ。

(1)の危機対応は、22年のロシアによるウクライナ侵攻を起因としたエネルギー高への対応が代表例といえる。当時は、ロシア産の天然ガス依存度が高かった欧州諸国を中心に、危機対応のために財政出動を余儀なくされた。

EUでは単一市場の安定のために、加盟国に財政規律を順守させる仕組みを定めているが、エネルギー危機時は財政ルールを一時的に停止して財政赤字を許容した。足元の中東紛争激化によるエネルギー価格上昇も、危機対応のための財政拡張圧力になっている。

(2)の高金利による政府の利払いについては、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻を契機に発生した高インフレに対応するため、欧米の中央銀行が政策金利を大幅に引き上げたことで負担が増した。その後、インフレ低下に合わせて政策金利は引き下げられたが、長期金利は高止まりしている。この一因として、拡張財政による国債発行の増額観測や、信用リスクによる金利上昇圧力といったリスク・プレミアムの拡大が指摘できる。

また、長期金利に遅れるかたちで政府債務の実効金利も上昇する。利払い負担の増加は直接的に財政赤字を増やすほか、実効金利が名目成長率を上回る状況になれば、プライマリーバランスが均衡していても、政府債務残高の対GDP比が増加するようになる(ドーマー条件)。日本銀行も24年から利上げを始めており、政府の利払い負担の増加が予想される。

(3)の政治的要素については、さらに意図的に財政刺激を行うケースと、何らかの制約によって健全化が進まないケースに分けられる。例えば、中国やドイツは自国の需要不足を認識しており、財政支出を増やすことで意図的に成長を下支えすることを狙っている。

加えて、トランプ政権による安全保障政策の方針転換を背景に、欧州を中心に世界的に防衛費を拡大する動きが進んでいる。北大西洋条約機構(NATO)は、加盟国の防衛関連支出の目標を35年までにGDP比5%に引き上げた。

EUは加盟国の申請に基づき、防衛費を財政ルールの例外として扱い、防衛産業強化のための融資枠を設けて防衛力強化を後押ししている。財源確保や防衛費以外の支出削減の議論も一部で浮上するが、当面はおおむね支出拡大が先行する見込みである。これらは、意図的な財政拡大といえる。

制約によって健全化が進まないケースもある。例えば、フランスでは与党の財政悪化への問題意識はあるものの、議会の分裂のために財政健全化を目指す予算は成立しなかった。

米国は主要財源とみられたトランプ関税のうち、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税が違憲と判断され、歳入の不透明感が増した。一方で、トランプ大統領が公約で掲げた大型減税を含む予算「OBBBA」(One Big Beautiful Bill Act)が成立しており、財政悪化が懸念される。なお、特定の国に限らず、先進国では高齢化や少子化に伴う社会保障支出が構造的に歳出を拡大させる要因となっており、財政健全化を困難にさせている。

日本の場合、政府債務残高が大きいものの、前述のとおり他国と比較してコロナ禍以降の財政赤字(対GDP比)は改善が進んでいる。こうしたなか、「責任ある積極財政」を掲げる高市早苗政権が25年10月に発足しており、今後の財政運営の在り方が注目される。