積極財政策の推進には効果と副作用の点検を

財政刺激策は、短期では総需要を増加させ、GDP押し上げる効果が期待できる。特に、需要不足下での財政支出には一定の合理性がある。一方で、供給力や財源の裏付けを超えた財政支出は金利上昇と高インフレという弊害を生みかねず、金融システムリスクを高める要因ともなり得る。

平時の拡張的な財政運営が続けば、危機時に機動的な財政対応を行うためのバッファーも低下する。市場の競争圧力に乏しい公的部門に依存した成長が長期化すると、生産性の悪化や新陳代謝の低下をもたらし、成長力が低下していく可能性もある。中国やドイツで実施されている需要不足下の財政刺激でも、需要不足が構造的な問題であり、短期の財政刺激で解消されなければ、解決には抜本的な構造改革を行う必要があるだろう。

なお、「高圧経済論」のように、意図的に需要超過の状況を継続させることで、供給力の改善を促すことができるとする理論もある。供給力が改善すれば成長率が高まるだけでなく、結果的にインフレも抑制されやすくなる。例えば、人手不足が継続することで省力化投資が活性化するといった事象は、その代表例と考えられる。

この立場からは、需要超過状態における財政刺激策も正当化され得る。ただし、供給のボトルネックをうまく解消できなければ、金利上昇と高インフレという副作用の影響が大きくなることは認識しておく必要がある。同じ財政刺激であってもその中身、例えば将来の供給力を高める投資なのか、あるいは恒久的な給付・減税なのか──などにより財政の持続可能性に与える影響が異なる点も注意すべきである。

日本の責任ある積極財政は、高圧経済論で論じられるようなメリットに配慮しつつ、財政の持続可能性を確保しながら市場の信認を維持し、副作用を抑えることを企図した政策といえる。現在、投資家は高市政権の政策がもたらすメリットとデメリットを見極めている段階にある。足元の市場のボラティリティーの高さは、政策評価が定まっていないことを反映しているとみられる。

世界的に財政健全化に向けた動きが進まないなか、財政リスクは金融システム不安のようなショックとして顕在化することもあれば、金利上昇や高インフレによる経済の弱体化として表れることもある。足元では、中東情勢の緊迫化で財政にさらなる拡張圧力が生じている。今後、経済への影響を見極めるためには、景気下支えのメリットと、金利・物価・金融システムを通じた副作用のデメリットの双方を慎重に点検する必要がある。

※本稿は「週刊 金融財政事情」2026年5月26日号(3635号)への寄稿を若干修正し、転載したものである。

(情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員 高山 武士)