二倍体と半倍数性との血縁度
ハチの半倍数性のメリットは何か。その答えは、メスのハチ同士がどの程度遺伝子を共有しているか、すなわち「血縁度」にある。
[人間]
人間では、自分と同じ遺伝子を母が持つ確率は0.5である。
この母から生まれる兄弟姉妹がその遺伝子を受け継ぐ確率は0.5であるため、母方に由来する兄弟姉妹との血縁度は0.5×0.5=0.25となる。
父についても同様で、父方から見た兄弟姉妹との血縁度も0.25である。したがって、父母双方を合わせると、自分と兄弟姉妹との血縁度は0.5となる。
[ハチ]
次に、メスのハチの場合を考える。母由来の関係は人間と同様であり、姉妹との血縁度は0.5×0.5=0.25となる。
一方、父については事情が異なる。オスのハチは半数体であり、もつ遺伝子は一組のみである。このため、父から子へ伝わる遺伝子は基本的に同一となる。
したがって、父から姉妹への血縁度は1となり、自分と姉妹との関係では0.5×1=0.5となる。
この結果、母由来と父由来を合わせると、自分と姉妹との血縁度は0.75となる。
このように、メスのハチにとっては、母との血縁度(0.5)よりも姉妹との血縁度(0.75)の方が大きい。この結果、家族の中で姉妹との結びつきが最も強くなる。
半倍数性のメリットは
(1) 姉妹の血縁度が高い
以上で見てきたように、半倍数性のもとでは姉妹間の血縁度が高くなる。
働きバチ(メス)にとっては、自分で子どもを産む場合の血縁度(0.5)よりも、女王バチの子(自分にとって妹)を育てる場合の血縁度(0.75)の方が高い。
このため、自ら繁殖するよりも、女王の繁殖を助ける方が、自身の遺伝子を効率的に残すことにつながる。
これが、ハミルトンによって提唱された「血縁選択説」である。
一般に、自分の利益よりも他者の利益のために行動することは「利他的」とされる。しかしハチのメスにとっては、血縁度の観点からみれば合理的な行動であると考えられる。
つまり、ハチの社会性は「利他行動」ではなく「遺伝的に合理的な行動」として説明できる。
(2) 有害遺伝子が淘汰されやすい
オスは半数体であるため、有害な遺伝子があってもそれを隠すことができない。
二倍体の生物では、もう一方の遺伝子によって有害な影響が表に出ない場合があるが、半数体ではそうした「隠れた状態」が生じない。
その結果、有害な遺伝子をもつ個体は生存しにくくなり、遺伝子の質が保たれやすくなる。
(3) 性比を柔軟に調節できる
女王バチは、受精の有無によってオスとメスを産み分けることができる。すなわち、受精していない卵からはオスが、受精卵からはメスが生まれる。
この仕組みにより、巣の状態や周囲の環境に応じて性比を調整することが可能となり、集団の維持や発展にとって大きな利点となる。
ただし、半倍数性そのものが社会性を直接生み出すわけではない点には注意が必要である。
半倍数性をもつハチやアリの中にも、社会性をもたない種は多い。したがって、半倍数性は社会進化の「原因」というよりも、「条件の一つ」として位置づけられる。