(ブルームバーグ):日本の食の魅力は世界的に知られている。東京はミシュランの星付きレストラン数で世界最多を誇り、毎年何百万人もの観光客が訪れる。つけ麺のようなシンプルな料理から、季節ごとに内容が変わる懐石料理まで、多彩な食を楽しむことができる。
これほど食に恵まれた日本で、なぜ米国のプライベートエクイティー(PE)ファンドは、ハンバーガーやフライドチキンといった米国発のファストフードに多額の投資を進めているのか。
米カーライル・グループは2024年、日本KFCホールディングスを約1350億円で買収した。昨年にはゴールドマン・サックス・グループのPE部門が、日本のバーガーキング事業を700億円で取得した。また、ウェンディーズの日本事業も売却の対象となっており、投資会社ロングリーチ・グループが売却に向けた動きを進めているとされる。
単身世帯や共働き世帯の増加といった人口動態の変化を背景に、手軽な食事への需要が高まり、ファストフードの販売を押し上げている。物価上昇が進む中、日本の消費者の間ではハンバーガーやフライドチキンを「ちょっとしたぜいたく」と捉える人も増えており、PEファンドはこうした動きを追い風に収益拡大を図る考えだ。
ウェンディーズ・ジャパンのアーネスト・M・比嘉会長は「プライベートエクイティは過小評価されている資産クラスを常に探している。外食産業はまさにその一つだ」と語った。
日本の外食産業は2018年以降、全体ではほとんど成長していない。一方、同期間にハンバーガー店やフライドチキン店の売上高は年平均で7%余り増えた。調査会社の富士経済によると、回転ずしやラーメン店、牛丼店といったカジュアル外食業態でも売上高は増加しているが、成長率は年5%未満にとどまる。
1971年に日本1号店を開いたマクドナルドは、3000店超を展開し市場で首位に立つ。モスバーガーが約1300店で2位に続く。店舗数でモスに迫るKFCや、約350店のバーガーキングの新たなオーナーは、競争が限られる市場に成長余地があるとみている。
ゴールドマン・サックス証券アセットマネジメント部門のバイスプレジデント、尾本和哉氏は「米国に行くと、ハンバーガーチェーンは何百もある。一方、日本は主要ブランドでも数は限られ、おそらく4-10程度にとどまる。まず数が少ない」と語った。バーガーキングの買収案件を主導した同氏は、2028年までに店舗数を600店に増やす見通しだ。
もっとも、安価な食事を求める消費者には、他の選択肢も豊富にある。餃子やフライドチキンなど幅広い低価格総菜を提供するコンビニエンスストアは至る所にある。韓国発の人気チェーン「マムズタッチ」も、プルコギバーガーなどのメニューで若年層の支持を集めている。
ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員は「競争環境は厳しい。消費者にはファストフード以外にも多くの選択肢がある」と語る。
値上げ浸透、市場に厚み
ファストフードの人気は手頃な価格によるところが大きいが、一部のブランドは値上げしてもなお、消費者が来店を続けるだけの支持を得ている。マクドナルドとモスバーガーの最近の売上高の伸びには、1回当たりの支出額の増加も寄与している。
こうした動きを受け、KFCやバーガーキングでは、成長戦略の幅を一段と広げる余地が生じている。高価格帯メニューの投入や、内装の刷新による高級感の演出などが含まれる。
いちよし経済研究所の鮫島誠一郎アナリストは「もはやハンバーガーの安売りで勝負するのではなく、いろいろな形で勝負ができるようになった。市場は厚みを増している」と話す。
これは、顧客獲得手段として低価格戦略に依存してきたデフレ時代からの大きな転換だ。
「ファストフードだけじゃない。全体的に価格が上がっている」。KFC浅草店で700円のチキンフィレを購入したという事業主の中島ゆうこ氏(68)はこう語る。最近では、お気に入りのファストフードでさえ負担に感じることがあるという。「利用頻度は減っている。そういうところで出費を削るしかないから」と話した。
KFCは1974年の広告キャンペーン以降、日本ではクリスマスの定番となっている。現在では多くの飲食店がクリスマス時期にチキンの特別メニューを提供しているが、KFCは依然として最も選ばれる存在であり、1年で最も忙しいこの時期には店外まで行列ができるほどだ。
カーライルは、通年での来店を促すメニューの拡充により、今後4年間でKFCの店舗数を約1700店へと3割増やす方針だ。買収交渉を主導したカーライルの富岡隆臣日本共同代表は「KFCは朝食や軽食、遅い時間帯の食事で、マクドナルドほど対応できていない」と語る。
KFCとバーガーキングは、業務の効率化にも取り組む。セルフ注文端末の導入による人員削減に加え、オンライン注文やデリバリーの拡充、データ活用を通じた消費者ニーズの把握を強化する。こうしたデータ活用により、地域ごとの嗜好に合わせた商品や期間限定メニューの開発が進むとみられる。
バーガーキングでは現在、期間限定の「ビッグマウスホワイト」シリーズを展開している。ゴーダチーズに加え、ガーリック風味のホワイトチーズソースを使ったバーガーが特徴で、ビーフとチキンを組み合わせた商品もある。KFCは、昨秋に好評だった期間限定の「ケンタの鶏竜田バーガー」を再投入した。
「食はグローバル化できるが、同時にローカルである必要がある」とカーライルの富岡氏は語った。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:Private Equity’s Appetite for Japanese Fast Food Is Growing (3)(抜粋)
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