シンガポールは人工知能(AI)の世界的なハブとなることを目指し、10億シンガポールドル(約1240億円)余りを投じる計画を掲げている。しかし、この取り組みの立案者の一人は、AIへの備えのアプローチが不十分だと警鐘を鳴らしている。

2017年に設立された国家AI研究開発プログラム「AI Singapore」のシニアディレクター、レスリー・テオ氏は、現在のアプローチは認定されたAI利用者を育てることに重点が置かれすぎており、AIを構築できる開発者もより多く必要だと指摘。こうした課題は、AI導入を進める企業がジュニアレベルの採用を抑制する中で浮上している。

「若手社員は安価だ。しかしAIはさらに安価だ」とテオ氏は12日のインタビューで語った。

各国が他国で構築されたシステムに依存せず自国技術の開発を進める中、AIは各政府にとって国家戦略の優先事項となっている。米国や中国をはじめとする主要経済国は、国内能力構築のためAI研究やコンピューティング能力、人材育成に巨額投資をしている。こうした世界的な動きは、シンガポールのような比較的小さい経済圏がどう追いついていけるかという疑問を投げかけている。

シンガポール政府投資公社(GIC)でチーフエコノミストと経済投資戦略ディレクターを務めたテオ氏は、企業が新人研修を縮小する中、政府がキャリア初期の訓練を公共の利益と位置付けて支援する必要があると考えている。

現在の主な施策は、国民がキャリアを通じて受講できる研修を助成する国家プログラム「SkillsFuture(スキルズフューチャー)」だ。25年には約60万6000人が支援対象の訓練プログラムに参加した。

参加率は高いが、問題はスピードだとテオ氏は指摘する。訓練プログラムは正式な手続きを経て設計、承認、展開されるため、カリキュラムが承認される頃には数年遅れとなっている可能性がある。

「AIの特性上、きょう知っていることと明日知ることは劇的に相反し得る」とテオ氏は述べた。同氏は国際通貨基金(IMF)やシンガポール通貨庁(MAS、中央銀行)、配車サービス大手グラブ・ホールディングスなどでも勤務経験がある。

変化の速さはすでに労働市場に表れている。シンガポールの大学による最新の卒業生就職調査によると、25年に正社員として就職した新卒者の割合は74.4%と、前年の79.4%から低下した。

しかし、テオ氏にとって問題は労働市場だけではない。他国で開発されたAIシステムに全面的に依存すれば、技術の進化方向やそれが誰の利益に資するのかなどについて、発言権を持てなくなる可能性がある。

「技術の設計や構築に関する重要な決定は、その場にいなければ意見を言うことすらできない」と語った。

シンガポールはそうした場で席を確保しようとしている。AI Singaporeは東南アジア向けに設計された大規模言語モデル(LLM)「SEA-LION」を開発し、ゴートゥー・グループなど地域企業が活用している。

それでも最終的な課題は、単にAIを使える人材を育てることではなく、AIシステムを構築できる人材を十分に育成できるかどうかだとテオ氏は指摘した。

原題:Singapore Must Train More People to Build AI, Top Official Says(抜粋)

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