加入者個人に関する要因

まず、生命保険加入の基礎的要因のうち、加入者個人に関する要因としては、リスク回避度や将来への不安の大きさといった心理的要因、扶養する子の有無に代表されるライフサイクル要因、所得や資産に関わる経済的要因、ならびに教育水準や金融知識の程度が挙げられる。

心理的要因

心理的側面については、生命保険はリスクへの備えであるため、個人のリスク回避度や将来への不安感が加入要因として重要であることが、多くの研究で指摘されている(Outreville, 2014; 林, 2012)。

リスク回避度や将来への不安感の他にも、個人の時間選好も加入に影響を与える可能性があることが報告されている(石田,2021; Koo & Lim, 2021)。

例えば、時間割引率が高い個人は将来の損害を小さく見積もることで生命保険に加入しにくい可能性がある他、現在バイアスを持つ人は、生命保険加入の必要性を感じていても加入行動が先延ばしされる可能性がある(Akhter & Khan, 2017)。

ライフサイクル要因

次に、加入者の年齢や家族構成といったライフサイクル要因が、生命保険需要に影響を与えることが繰り返し指摘されてきた。

理論的には、寿命の不確実性のもとで、死亡時に生じる経済的影響が、家計や扶養家族に及ぼす影響を考慮する必要があることから、生命保険の必要性は、ライフサイクルの段階に応じて変化すると考えられている(Yaari, 1965;Lewis, 1989)。

実証研究においても、年齢、婚姻状況、扶養家族の有無といった変数が生命保険加入と有意に関連していることが示されている。

特に、扶養家族の多い個人ほど生命保険に加入する傾向があると考えられるが、実証研究では扶養の有無が加入に与える影響について正負両方の結果が報告されている(Trinh et al., 2023)。

負の影響が報告される理由としては、扶養家族が多くなることにともなう予算の制約が考えられる(Akhter & Khan, 2017)。

また、年齢と生命保険加入の関係については、正の関係が見られる場合と負の関係が見られる場合の双方が報告されており、年齢による影響は一様ではないことが指摘されている。

さらに、若年期・中年期・高齢期といったライフステージによって加入状況や保障内容が変化するなど、非線形な関係が観察されることも報告されている(Outreville, 2014; Zietz, 2003)。

これは、ライフサイクル要因が他の個人要因や経済的要因と結びつきながら作用していることを示唆している。

経済的要因

経済的要因としては、所得や資産が生命保険加入の重要な決定要因として広く指摘されている。

多くの実証研究において、所得水準の高さが生命保険需要を高めるという関係が報告されている一方で(Beck & Webb, 2003)、高所得国では所得の増加が必ずしも生命保険需要の増加につながらず、むしろ低下するケースも指摘されている(Rapi et al., 2025)。

また、歴史的事例として、資産の増加によって自己保険能力が高まり、結果として生命保険需要が低下したケースも報告されている(Matteo & Emery, 2002)。

これらの研究から、経済的要因が生命保険加入に与える影響の方向は、経済環境や制度的背景といった状況によって異なると考えられる。

教育水準や金融知識

また、教育水準や金融知識は金融行動に影響する重要な要因として多くの研究で指摘されているが、その影響の方向性は必ずしも一貫しておらず、地域や制度環境によって異なる可能性が示唆されている。

例えば、台湾の実証研究では、金融リテラシーが高い個人ほど生命保険に加入している確率が統計的に高いことが示された一方(Lin et al., 2017)、マレーシアでは金融リテラシーの有意性が弱いという結果が報告されている(Mahdzan & Victorian, 2013)。

また、日本の調査では、金融・保険リテラシーの高い層は保障ニーズへの理解が深く、保険加入行動との関連が確認されている(家森, 2017)。

教育水準と生命保険加入の関係についても、正負両方の関係が報告されてきている(Trinh et al., 2023)。