3|核分裂と比較した核融合の特性

核融合が次世代エネルギーとして注目される理由のひとつは、核分裂とは反応原理や特性の面で本質的に異なるためである。

現在の原子力発電は、ウランやプルトニウムといった重い原子核が分裂する際に放出されるエネルギーを利用している。

この反応では、分裂によって生じた中性子が次の分裂を引き起こすため、反応は連鎖的に進行する。このため反応の厳格な制御が不可欠である。

また、核分裂では高レベルの放射性廃棄物が不回避的に発生し、その多くが長い半減期を持つ。

これに対して核融合は、重水素やトリチウムなどの軽い原子核どうしが融合することでエネルギーを生み出す反応である。

核融合反応は、1億℃を超える超高温・高密度のプラズマ状態が維持されている場合にのみ反応が成立し、温度や密度、閉じ込め条件のいずれかが失われると反応は自然に停止する。このため、核分裂のような自律的な連鎖反応や暴走が起こりにくいとされている。

さらに、核融合では、軽い原子核が融合してより安定な原子核になるため、核分裂で問題となる高レベル放射性廃棄物は原理的には発生しないと評価されている。

一方で中性子照射による構造材の放射化などから中レベルや低レベルの放射性廃棄物は生じるため、それらの管理や処理に関する課題は残されている。

こうした放射性物質の課題を抱えつつも、核融合は自律的反応の制御リスクや環境負荷の面で、核分裂とは異なる特性を持つエネルギー技術である。

このような特性が、将来のエネルギー体系において核融合が新たな選択肢として検討される理由のひとつといえる。

4|核融合に関する人々の認識

核融合の社会実装に向けては、技術・経済性に加え、社会的受容性の確保も不可欠である。米国での研究では、核融合に対して肯定的に捉えられている一方で、ほとんどの人がこの技術に関する知識が乏しいという認識のギャップも指摘されている。

また、全国1,000人を対象とした国内での核融合に関する認知度の調査においても、核融合に対するイメージは「危険(60.7%)」、「不安(41.9%)」、「信頼できない(24.4%)」であり、86.0%が「核融合」と「原子力」が異なる技術であることを認知していなかったという結果もある。

今後の政策運営においては、燃料となるトリチウムや核融合の反応過程で発生する放射性物質の管理や廃棄物処理のリスクと便益をバランスよく開示し、地域住民や市民との対話を早期から進めることが、長期的な事業基盤を確保するうえで重要な課題となる。

おわりに

本稿では、地政学リスクの高まりやサプライチェーンの不安定化を背景に、高市政権が掲げる日本成長戦略会議および危機管理投資の枠組みを整理し、その中で戦略分野のひとつに位置づけられる核融合について、その基本原理、技術的特徴、課題そして次世代エネルギーとして注目される理由を概観してきた。

核融合は、燃料供給面でも海外依存を低減し得る可能性を持つ。さらに二酸化炭素を排出せず、長時間にわたり安定した出力での運転が想定されていることから、再エネを主軸とする将来の電力システムを補完する安定電源のひとつとなる可能性のある次世代エネルギーとして検討されている。

また核分裂と異なり、現行の設計評価に基づく限り、高レベルの放射性廃棄物は生じないと見込まれている。

一方で、中性子照射により放射化した構造材など、中レベル・低レベルの放射性廃棄物は発生し、その多くは核分裂の高レベル廃棄物に比べて半減期も比較的短いとされている。

これらの特性を踏まえると、エネルギー供給の安定化や脱炭素化という日本の重要な政策課題に対し、核融合は中長期的な政策選択肢として検討に値する技術であるといえる。

ただし、現在は依然として研究開発段階であり、多くの課題が残されている。技術面では、発電炉として成立するレベルで安定かつ信頼性の高い運転を実現することが最大の課題であり、燃料供給を含む運用システム全体の確立が不可欠である。

また、実用化の観点からは、初期投資、運転維持費の水準、開発から導入までに要する期間の長さといった不確実性などを踏まえ、発電事業としての採算性を慎重に見極める必要がある。

さらに、政策・制度面の課題として、安全や規制、管理に関するルールの在り方、将来のエネルギーミックスに組み込む際は、電力システム全体として運転停止時の安定性などを確保する必要がある。

また、専門家の間では、2050年カーボンニュートラルの達成という時間軸を踏まえると、核融合が電源としてどこまで寄与するかについては見解が分かれており、即効性の高い施策との政策資源配分のバランスが重要な論点となっている。

以上を踏まえ、核融合は、中長期的な視点で再エネや省エネ、既存原子力などのポートフォリオの中で投資優先度を検討しつつ、将来のエネルギー体系を支える選択肢のひとつとして位置付けることが重要である。

危機管理投資の理念の下で進められる核融合への取り組みは、将来の供給力と技術基盤を確保する観点から、今後も注視すべき重要な政策テーマである。

※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 研究員 土居 優

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