(1) 保育士も含めた家庭と仕事の両立をしやすい環境づくり

先述の調査で、保育士の定着の上で課題となっている要因の第3位に「子育てや介護等の家庭との両立」が挙げられている。

このような家庭と仕事との両立の難しさは、子育て期の保育士にフルタイム労働からの撤退を促し、離職やパートタイム労働への移行を余儀なくさせることが指摘されている。

しかし、子育てや家庭との両立のためにパートタイム労働を志向しても、需要と供給がマッチしない事態が起きている。

非正規保育士はこどもや正規保育士の少ない時間帯(朝と夕方の時間帯など)に配置される傾向があるが、このような早朝保育や延長保育の時間帯は、子育て中のパート労働希望者にとって就労が難しい時間帯である。

こども家庭庁の都道府県に対する調査の自由記述のなかには、「保育施設側が求人する時間帯(フルタイム・早朝・延長保育)と主な求職者(30・40代の子育て中の方・日中の短時間勤務を希望)のミスマッチが起こっている」との回答がある。

保育士は共働き世帯やこども・家庭をサポートする立場であると同時に、保育士自身も共働き世帯であったり、こどもを持つ保護者であったりする。

そのような観点から、保育人材の確保を捉え直す必要がある。

たとえば、保育士における家庭と仕事との両立に関する問題が他の共働き世帯と同様と考えれば、依然として女性に偏りがちだとされる家事・育児分担に男性が積極的に参加しやすいような社会環境を整備することなどが、保育人材確保の面でも有効だと考えられる。

特に保育士は女性が占める割合が非常に高く、性別役割への無意識な期待が様々な形で影響を与えている可能性がある。

(2) 男性の保育人材に特有の障壁と課題への対策

保育人材におけるジェンダーバランスには不均衡があり、前述のとおり女性が占める比率が高い。

保育士や看護師のような、ケアに関連する仕事でなおかつ女性の占める割合が多い職業では、男性就業者の社会的地位が女性就業者よりも低く評価される傾向にあり、男性が保育職に就く際に特有の障壁がある。

保育人材の確保という点で議論するならば、そのような男性の保育人材に特有の課題の検証と対策なども必須である。

(3) 地方創生の観点からの一体的な環境づくり

保育人材が不足する背景には、地域による違いもある。

人口減少により過疎地域で保育所の統廃合などがされれば、必要となる職員数も減ると考えられるが、そのような地域でも人材不足が生じている。

前述のこども家庭庁の調査のうち市区町村に対して行った調査では、政令指定都市・中核市等だけでなく町・村でも、保育士について「すべて・ほとんどの地域で不足傾向にある」と回答する割合が最も高い。

町・村で保育士が不足している要因の第1位は、「条件のよい近隣市区町村や都市部等に人材が流れてしまう」となっており、都市部の理由とは別の理由で人材確保が難しい実態がある。

地域間格差による人材流出対策として自治体による独自の補助金や支援制度、保育政策においては公定価格の地域区分の見直しなども行われているが、地方の人材流出と都市部への人材流入の問題は、保育業界に限らず日本全体で生じている問題である。

特に若者や女性の地方からの流出が指摘されており、保育士は女性比率が高く就業者平均年齢が比較的低い傾向があることから、この影響を強く受けていると考えられる。より広く地方創生の観点からの一体的な対策も重要である。

全てのこどもや家庭への支援、質の確保・向上のために、女性比率の高い職種特有の構造的な問題や地方創生なども含め、より多様な観点から保育人材の確保へ向けた検討と対策を進めていくことが、これまで以上に重要である。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 研究員 小林 菜)

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