まとめ
本稿では、2025年3月に経過措置が終了し、新しい上場維持基準が本格的に適用されるなかで、基準未達企業の現状と対応について検討した。
2025年8月時点で、上場会社3,800社のうち217社(全体の約6%)が基準未達となっており、今後は改善期間や経過措置の終了を経て、上場廃止に至る企業が増加する可能性がある。
市場別にみると、プライム・スタンダード市場では流通株式時価総額基準の未達が多く、グロース市場では時価総額基準の未達が目立った。
とりわけグロース市場については、時価総額基準の厳格化(「上場後10年40億円」から「上場後5年100億円」へ)の方針も示されており、企業にはより早期からの成長戦略の実現が求められる。
基準未達企業の対応策としては、業績改善や株主還元の強化による基準適合のほか、市場区分の変更、地方取引所への重複上場、さらにはMBOや親子上場の解消を通じた非公開化など、多様な選択肢が存在する。
実際、2024年末の東証上場企業数は3,842社と、2013年以来初めて減少に転じており、その背景には非公開化の増加がある。
総じて、新しい上場維持基準の適用は、企業に株式市場との向き合い方を再定義することを迫っている。新しい上場維持基準が厳格化されたことは、企業への負担や短期的には形式的な対応を強いることも否定できない。
しかし、従来の基準は新規上場基準と比べて廃止基準が著しく低く、一度上場すれば低いハードルで継続できる構造であった。この点を踏まえれば、新しい上場維持基準は「上場企業として最低限求められる姿」を明確にしたものといえる。
今後は、基準未達企業やボーダーライン上の企業を含め、基準適合を目指す企業に加え市場区分の変更や非公開化など、それぞれの立場に応じた戦略的対応を選択する企業がさらに増えるだろう。
すなわち、今回の市場再編は負担であると同時に、企業に中長期的な戦略の再構築を促し、投資家との信頼関係を強化する契機ともなり得ていると考える。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 研究員 森下 千鶴)
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