がんに関する情報の認知
がんについて、どういう情報を知っているか
本稿では、人々は、がんをどのようにとらえているのか。
知っている情報によって、がん検診の受診やがん罹患時の備えに違いはあるかについて紹介する。
使用したのは、2021年6月にニッセイ基礎研究所が実施した「がんの備えに対する意識調査」の結果である。
本調査は、20〜74歳の男女個人を対象とするインターネット調査で、回収数は3,000である。
調査では、がんについて、いくつかの情報をあげて、それぞれについてどの程度知っているか「よく知っている」「知っている」「聞いたことがある程度」「知らなかった」から回答を得た。
「よく知っている」の割合が高いのは「がんの早期発見・早期治療は、がん罹患後の生存率に大きく影響する」で、「よく知っている」が22.3%、「よく知っている」と「知っている」をあわせて半数を超えた。
「よく知っている」の割合がもっとも低かったのは、「がん全体の5年生存率は50%を超えている(5.9%)」で、「知っている(20.1%)」をあわせても3割に満たない。
「知らなかった」がもっとも高いのは「がん全体の5年生存率は50%を超えている(44.2%)」だった。
厚生労働省では、継続的にがん検診を推奨してきているが、それでも、「厚生労働省では、がん検診を推奨している」は「よく知っている」と「知っている」をあわせて半数弱にとどまる。
さらに、「厚生労働省が推奨しているがん検診は、5つのがん(胃がん、肺がん、子宮頸がん、乳がん、大腸がん)を対象としている」は3割強にとどまっており、「がんの早期発見・早期治療は、がん罹患後の生存率に大きく影響する」という情報は比較的知られているものの、厚生労働省による二次予防としてのがん検診推奨については、十分には周知されていないと言えるだろう。
性別と年齢群団別に、「よく知っている」または「知っている」と回答した割合をみると、それぞれの情報によってバラバラではあるものの、「日本では、約2人に1人が、将来、がんにかかると推測されている」等の男女年齢による差が比較的小さい情報もあれば、「がんの早期発見・早期治療は、がん罹患後の生存率に大きく影響する」「厚生労働省では、がん検診を推奨している」「厚生労働省が推奨しているがん検診は、5つのがん対象としている」「がん全体の5年生存率は50%を超えている」のように高年齢で高い情報もあった。
一方、「子宮頸がんのように若い世代で増えているがんもある」は、特に若年女性で高い等、がんに関する情報の拡がりは多様であることが伺える。
一般に、「がんの早期発見・早期治療は、がん罹患後の生存率に大きく影響する」と「がん全体の5年生存率は50%を超えている」や、「日本では、約2人に1人が、将来、がんにかかると推測されている」と「日本では、死亡者の約3人に1人が、がんで死亡している」等は互いに相関が強そうであるが、今回の調査では「厚生労働省では、がん検診を推奨している」と「厚生労働省が推奨しているがん検診は、5つのがん対象としている」の相関がやや高かったものの、それ以外については情報間の認知の相関は低~中程度にとどまっており、個々の情報が単発的に認知されている様子がうかがえた。
認知する情報とがん検診受診率
つづいて、がんに関する上記情報の認知と、2年以内に、5つの部位についてがん検診を受けたかどうかを部位ごとに線形確率モデルで推計した。
説明変数は、がんを怖いと思うかどうか(「こわい」「どちらかと言えばこわい」を1、「どちらかと言えばこわくない」「こわくない」「わからない」を0とするダミー変数)と、上記8つの質問についての認知状況(「よく知っている」を4、「知っている」を3、「聞いたことがある程度」を2、「知らなかった」を1)とした。
性、年齢、未既婚、職業、同居家族の有無、健康状態を調整した。
その結果、「日本では、死亡者の約3人に1人が、がんで死亡している」を認知しているほど、大腸がん、肺がん、子宮頸がん、「がん全体の5年生存率は50%を超えている」を認知しているほど、乳がん、子宮頸がんの検診は受けていない。
また、「日本では、約2人に1人が、将来、がんにかかると推測されている」を認知しているほど、大腸がんと肺がん、「子宮頸がんのように若い世代で増えているがんもある」を認知しているほど、子宮頸がん、「がんの中には、ウィルスや細菌の感染によって発症するものもある」を認知しているほど、胃がん、「厚生労働省では、がん検診を推奨している」を認知しているほど大腸がん、肺がん、子宮頸がん、「がんの早期発見・早期治療は、がん罹患後の生存率に大きく影響する」を認知しているほど、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんの検診をそれぞれ受けていた。
多くの情報については、知っているほど検診を受けている傾向があるが、今回「日本では、死亡者の約3人に1人が、がんで死亡している」と「がん全体の5年生存率は50%を超えている」は、知っているほど、いくつかの部位について検診を受けていない傾向が見られた。
この2つの情報については、「よく知っている」と回答をした人は、他の情報と同様に、がんを「こわいと思っている」と回答した割合が9割近くと圧倒的に多かったが、「こわいと思っていない」と回答している割合も全体と比べて高いことから、がんだけを特別こわい病気として捉えていない人が含まれる可能性が考えられた。