認知する情報とがんへの備えに対する考え方

つづいて、がんへの備えの重要性を尋ねた結果、全体の45.7%が「重要だと思う」、39.2%が「まあ重要だと思う」と回答しており、あわせて84.9%が重要だと考えていた。

がんへの備えに対する考え方(「重要だと思う」を5~「重要ではないと思う」を1)を被説明変数として、がんに関する情報の認知との関係を重回帰モデルで分析した。
説明変数は、がんを怖いと思うかどうか(「こわい」「どちらかと言えばこわい」を1、「どちらかと言えばこわくない」「こわくない」「わからない」を0とするダミー変数)と、上記8つの質問についての認知状況(「よく知っている」を4、「知っている」を3、「聞いたことがある程度」を2、「知らなかった」を1)とした。
性、年齢、未既婚、職業、同居家族の有無、健康状態を調整した。

その結果、がんに関する情報の認知との関係をみると、「日本では、死亡者の約3人に1人が、がんで死亡している」「子宮頸がんのように若い世代で増えているがんもある」「厚生労働省では、がん検診を推奨している」「がんの早期発見・早期治療は、がん罹患後の生存率に大きく影響する」を認知しているほど、重要だと回答し、「がん全体の5年生存率は50%を超えている」を認知しているほど、重要ではないと回答していた。

「がん全体の5年生存率は50%を超えている」を知っている人では、がん検診受診率も低かったが、がんが怖いと思う人も相対的に少ないだけでなく、がんに対する備えの面でも相対的に重要ではないと考える傾向がみられ、がんを特別な病気と捉えていない可能性が考えられる。

おわりに

がんに関する情報について、どの程度知っているか尋ねた結果、今回の質問の中では、「よく知っている」または「知っている」と回答した割合は、「がんの早期発見・早期治療は、がん罹患後の生存率に大きく影響する」が最も高く、62.6%だった。「厚生労働省では、がん検診を推奨している」は45.5%と半数に満たない。さらに、「厚生労働省が推奨しているがん検診は、5つのがん対象としている」は3割程度と低くなっていた。国が早期発見、早期治療を目指してがん検診を推奨していることや、検診を推奨する5つのがんについて、検診を比較的安価に受けられることを周知し続けることが必要だろう。

多くの情報については、知っているほど検診を受けている傾向があるが、今回「日本では、死亡者の約3人に1人が、がんで死亡している」と「がん全体の5年生存率は50%を超えている」は、知っているほど、いくつかの部位について検診を受けていない傾向が見られた。これらの情報は「よく知っている」で、がんをこわいと思う気持ちが少ない人もいた。また、多くの情報については、認知しているほど、がんに対する備えを重要だと回答していた。しかし、「がん全体の5年生存率は50%を超えている」は、認知している人ほど、がんへの備えを重要視していない傾向があった。

がんに関する各情報は、それぞれの情報が単発的に認知されている様子がうかがえたことを踏まえて、がん検診の普及を図る観点からは、「がん全体の5年生存率は50%を超えている」については、その背景にがん検診受診率の向上にともなう早期発見の増加や医療技術の進歩があることをあわせて伝えたり、生存率が高くなったからこそ、治療しながら日常生活を送ることを踏まえた準備をする必要性を伝えていく必要があるだろう。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子)