ニッセイ基礎研究所では、2022年から「サステナビリティに関わる意識と消費者行動 」に関する調査・研究を進めているが、本稿では2024年8月に実施した調査を中心に、消費者のサステナビリティに関する意識や消費態度、そして関係するキーワード認知・理解など、多角的な視点から、その現状について明らかにしていく。

サステナビリティ・キーワードの認知率

上位は「SDGs」「フードロス」、2023年から変わらず

サステナビリティとは、社会や環境を長期的に維持可能な形で発展させることを目指す包括的な概念である。しかし、その内容は多岐にわたり、環境・エコロジー(気候変動対策、資源の持続可能な利用、循環型経済、エシカル消費など)、社会問題・人権・多様性、健康・文化・ライフスタイル、企業経営・ガバナンス、テクノロジーやビジネスなど、広範な分野にわたる。まずは、これらに関連するキーワードが、社会にどのように認知され、理解されているかを探っていく。

この分析に用いた調査では、「サステナブル(Sustainable:持続可能)な社会を実現するためのキーワード」として44のワードについて、「聞いたことがあるか」(認知)を尋ねている。

また、2022年・2023年にも同様のサンプルフレームで調査を行っており、それらと比較可能な範囲で経年傾向も示していく。

最初に、2024年調査結果を見ていくと、認知率トップは「SDGs」(73.7%)、次いで「フードロス」(51.1%)、「再生可能エネルギー」(48.6%)が続く。これら3ワードは2023年度から変化は見られなかった。
また、「サステナビリティ」(42.7%)、「カーボンニュートラル」(41.1%)など、サステナビリティの中でも環境・エコロジー分野のワードが4割を超えて上位を占めている傾向も、昨年2023年と同様の傾向を示している。

社会問題・人権・多様性分野、健康・ライフスタイル分野のキーワードも、環境・エコロジー分野と同様に幅広く認知されている様子が伺える。
たとえば、「健康寿命」(43.0%)、「ヤングケアラー」(42.9%)など、生活者にとって身近で話題になりやすいワードは上位となる傾向がある。次いで「ダイバーシティ」(34.9%)、「LGBTQ+」(33.0%)、「地方創生」(32.2%)、「フェアトレード」(30.6%)が続いている。

その一方で、企業経営・ガバナンス分野、テクノロジー・ビジネス分野のキーワードは、全般的にやや低調である。
「コンプライアンス」(38.0%)、「スマートシティ」(22.7%)など、2割を超えるワードも見られたが、環境・エコロジー分野を始めとする先の3分野と比べるとそこまで高くはない。
主にビジネスで用いられるキーワードも多く、一般の消費者には馴染みが薄いと思われるが、サステナビリティ・マーケティングの観点でみると、「サプライチェーン・マネジメント」(11.1%)や「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」(5.7%)は、商流全体の持続可能性を高める施策や、脱炭素と経済活性化を同時に実現するための活動を伝える重要なキーワードでもある。

今後、消費者への積極的な発信が期待されるテーマでもあり、より一層の認知率向上が課題であろう。

サステナビリティ・キーワード認知率の経年変化~2023年から増加したのは、4つのワードのみ

2024年調査は、2022年・2023年調査と同じ対象者条件とサンプルフレームで実施している。
ただし、2024年調査でキーワードを追加しており、比較可能な範囲で経年変化を分析した。

その結果を図で表す。縦軸は2024年認知率、横軸は2024年の対前年(2023年)の認知率増減を示す。対象の44ワードの認知率平均値(24.4%)を横軸方向に追加した。

右上の象限は、認知率が平均値より高く、対前年でも増加したワードである。
右下の象限は、認知率は低いものの、対前年で増加したワードを示す。

2023年と比較して有意(p<.05> 日常生活に直結する「3R/4R」や、個人の幸福感・健康に関連する「ウェルビーイング」など、身近で実践的なキーワードの浸透が見られた。

「3R/4R」については、調査実施直前の2024年8月2日に第五次循環型社会形成推進基本計画が閣議決定され、5年ぶりに計画が改定されており、「ウェルビーイング」については、第一次岸田内閣の経済政策「新しい資本主義」における成長戦略「デジタル田園都市国家構想」に基づいて、積極的な浸透策が進められたことが記憶に新しい。

また、従業員の健康と幸福を重視する「ウェルビーイング経営」も、ビジネス界で注目されている。
このような官民双方での取り組みがキーワードの浸透に影響を与えている可能性もあるだろう。

一方、2023年と比べて認知率が有意差をもって減少したキーワードは計14ワードにのぼった。

たとえば、「再生可能エネルギー」(△8.1pt)や、新しい働き方として社会の注目を集めた「ワーケーション」(△5.8pt)などは、外部環境の経年変化に伴い、注目度が落ち着いたとも考えられる。

同様に、「サステナビリティ」(△7.4pt)のように、サステナビリティにおける消費者認知や理解の根幹をなす主だったキーワードが、2023年と比べて軒並みスコアを落とした点にも注目したい。

今夏(6〜8月)は2年連続で全国的に過去最高の平均気温を記録し、気候変動や地球環境に対する危機意識を思い起こす消費者も多かったと思われる。
しかしその一方で、生活必需品の価格上昇、地政学上のリスク、地震災害、政治資金問題、パリ五輪など、より身近な社会的トピックが数多く報道されており、サステナビリティ全般への注目度が相対的に控えめになったとも考えられる。

サステナビリティ・キーワード認知率の層別分析~若年層は「3R/4R」、シニアは「健康寿命」がトップ

次に、消費者の基本属性別により細かく認知率を見ていく。
2023年調査では、キーワードの認知・理解において、いずれも性別・年代・世帯類型などによって多様な受け止め方が見られた。

まず、性別をみると、男性では、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」(22.6%)、「コーポレートガバナンス」(19.2%)、「ゼロエミッション・ゼロウェスト」(16.9%)が特に高く、全般的にビジネス関連のキーワードが目立つ。
一方、女性では「フードロス」(58.1%)、「ヤングケアラー」(52.5%)など、食品管理や家族ケアに関するキーワードが特に高く、男性・女性それぞれの社会的役割や日常行動に関連するキーワードが上位となった。

次に、年代別・世帯類型別の認知率では、全般的に認知率が高いのは、60〜70代の男女や、既婚で高校生以上の子どもがいる世帯となった。
これは2023年調査とも共通した傾向だ。

より詳しく見ていくと、若年層(20代)は、環境・エコロジー分野の「3R/4R」(男性24.9%,女性30.2%)が男女と問わず上位だが、同分野の「再生可能エネルギー」(男性37.8%、女性41.2%)、「フードロス」(男性32.6%、女性37.9%)、「カーボンニュートラル」(男性28.5%、女性29.4%)など、ビジネス寄りのキーワードは、他の世代と比べて低めにとどまった。

また、社会問題・人権・多様性分野、健康・生き方分野のキーワードをみると、若年層(20代)は、多様性やジェンダー、自己実現や精神的な豊かさに関連するキーワードの「LGBTQ+」(男性31.1%、女性34.6%)、「ウェルビーイング」(男性11.4%、女性8.8%)で高めだが、それ以外は全体的に低めとなり、特に「健康寿命」(男性27.5%、女性30.2%)、「ヤングケアラー」(男性22.8%、女性29.7%)、「地方創生」(男性21.2%、女性19.8%)、「ワーケーション」(男性10.4%、女性8.8%)など、若年層とは、やや距離感が感じられるキーワードは、全体と比べて10pt以上低めとなった。

2017年・2018年の文部科学省新学習指導要領改訂で「持続可能な社会の創り手」育成の方針が示された後、義務教育課程では、SDGsや気候変動問題の基礎学習が本格的に進められている。本調査のみからの言及は難しいが、そのような「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development: ESD)」の成果が、若年層に着実に浸透している結果とも受け取れる。
また、シニア層(60~70代)では、「健康寿命」(男性54.4%、女性66.2%)、「コンプライアンス(法令順守)」(男性50.3%、女性50.1%)、「地方創生」(男性45.9%、女性46.0%)など、健康・生き方分野や、社会的な規範に由来するキーワードが男女を問わず高い認知率を示した。

この傾向は、エシカル(倫理的)な消費行動が、家族や友人などの身近な集団における規範(他者の期待や社会的ルール)による影響を受けやすい、という先行学術研究の知見とも概ね一致する傾向である。
特にシニア層は、地域コミュニティとのつながりや、年長者として社会的責任を意識する傾向があるとされる。
同層は日常的にTV等のマスメディア接触頻度も高いと言われ、サステナビリティ関連の報道にも触れやすいという生活上の特性と合わせて、キーワードの認知に影響を与えている可能性がありそうだ。

しかし、それ以外のキーワードは男性と女性で異なる特徴も見られた。

たとえば、男性では「カーボンニュートラル」(57.1%)、「マイクロプラスチック」(36.1%)、「スマートシティ」(36.5%)、「生物多様性」(32.8%)など、気候変動や海洋汚染といったマクロな環境問題についての認知率が高い。
一方、女性は「フードロス」(64.3%)、「ヤングケアラー」(60.9%)など、生活に密接する社会問題についての認知率が高く、性別で傾向差があるキーワードも見られた。

次に、世帯年収や個人年収、世帯金融資産の傾向を層別に詳しく見ていく。

全般的に認知率が高いのは、個人年収800万円以上、世帯年収1000万円以上、世帯金融資産1000万~2000万円以上の層となり、この傾向は2023年の調査結果と概ね一致している。

また、世帯年収と世帯金融資産の間の認知率の傾向差に注目すると、世帯年収1000万円以上層で特に高いキーワードは、企業経営・ガバナンス分野(例:「コーポレートガバナンス」、「トレーサビリティ」)、テクノロジー・ビジネス分野(例:「スマートシティ」、「デジタルトランスフォーメーション」)など主にビジネスで用いられるキーワードが多い。

一方で、世帯金融資産2000万円以上層では、環境・エコロジー分野(例:「サステナビリティ」、「カーボンニュートラル」)、健康・生き方分野(例:「健康寿命」)、企業経営・ガバナンス分野(例:「コンプライアンス(法令順守)」)、社会問題・人権・多様性分野(例:「ダイバーシティ」)など、分野を超えて幅広い広がりが見られた。

ビジネスを軸に関心が絞られる高年収層と、分野を超えて幅広い関心を持つ金融資産形成層の間で、サステナビリティについての情報接触や向き合い方の違いが伺える結果である。