キーワード認知に影響を与える要因~高世帯収入はプラス、十分ではない世帯金融資産はマイナス

持続可能な社会の推進に向けて、サステナビリティに関する知識を社会全体に広く浸透させていくことは重要な命題であるが、これをサステナブル・マーケティングの課題として捉えた時、キーワードの認知率向上に影響している要因を的確に把握することは大切な初手となる。

そこで、これらのキーワードの認知数に影響を与える属性(性別、年代、世帯類型、個人年収、世帯年収、世帯金融資産など)と、その大きさを明らかにするための統計解析を行った。

調査対象者が認知したキーワード数を目的変数、属性(性別、年代、未既婚、子ども有無、個人年収、世帯年収、世帯金融資産)を説明変数としてモデル化した。解析の結果、キーワード認知数に対する影響が有意となった属性は次の通りなった。

世帯年収が1000万円を超える場合、キーワード認知数が一定数(13ワード以上)となる比率(オッズ比)は2.13(約113%増)、年代がシニア層(60~70代)の場合、同1.63(約63%増)となった。
この結果は、世帯年収が1,000万円を超えると、キーワードを一定数(13ワード以上)認知する人の比率が増加する傾向があり、基準層と比べて約2.13倍と大幅に増加する可能性を示している。

同様に、シニア層も、キーワード認知数が一定数を超えて増える比率が1.63倍に増加する可能性がある。
なお、世帯年収と年代は独立にモデルに組み込まれており、若年層であっても世帯年収が1000万円を超えると、キーワード認知数が一定数を超える比率が大幅に高まることが期待される。

その一方で、個人年収400万円未満(オッズ比0.70)と、世帯金融資産1000万円未満(オッズ比0.38)は、逆にキーワード認知数の減少に関連しており、世帯金融資産が1000万円を下回る、または個人年収が400万円を下回る場合、キーワードの認知数が一定数を超える比率が、それぞれ約62%、約30%と大幅に低下する(0.38倍、0.7倍)という影響が示されている。

個人年収より世帯金融資産の方が、キーワードの認知数に関するマイナスの影響が大きいが、この点については、個人年収は時点の収入状況に過ぎず、世帯全体の資産状況ほど包括的な影響を与えないという見方もできると思われる。

教育や文化的リソースへのアクセスは、サステナビリティを問わず情報感度や行動変容に影響を与える要因である。
本調査結果からの言及は限られるが、キーワードの認知数に関して、世帯金融資産の低さがマイナスの影響を与えている点については、今後も注視していくべき点であろう。

なお、この統計モデルの説明力は中程度である。
本稿では、基本属性に限定してモデル化したが、それ以外に、教育水準や情報接触、社会的なネットワークなどの多様な変数の影響も示唆される。

サステナビリティ・キーワード理解状況

サステナビリティ・キーワードの理解率と経年変化~「SDGs」で約5割、多くは3割未満にとどまる

ここまでは、サステナビリティ・キーワードの認知率(聞いたことがある)を見てきた。ここからは、知っているキーワードに関して、それぞれの理解率(そのキーワードを認知している人を100%とした場合、内容まで理解していると回答した比率)を、認知率と同様に、44ワードのうち5%以上の認知率が認められた34ワードについて見ていくことにする。

全体的な理解率は「SDGs」(47.7%)、「フードロス」(42.9%)、「再生可能エネルギー」(32.5%)が上位となった。しかし、それ以外のキーワードはいずれも3割未満にとどまり、「サステナビリティ」(22.5%)は2割強にとどまった。この傾向は、2023年調査の結果とも概ね一致している。

さらに、2023年調査結果と比較して有意(p<.05>

なお「フェムテック」とは、女性の健康課題を技術的なアプローチで解決する新しい市場分野である。

2024年は、働く女性の妊娠・出産・更年期などのライフイベントに起因する望まない離職を防ぐための公的な実証事業が広く進められており、新製品・サービスがマスメディアでも盛んに取り上げられていたことも記憶に新しい。
今回の調査結果のみからは言及はできないが、このような取り組みや動向がキーワードの社会的な浸透につながった可能性も考えられる。

サステナビリティ・キーワードの認知理解率~認知・理解の両面で伸び悩む「エシカル消費」

今後の課題を整理するため、ここまでの分析で用いたキーワードの理解率を認知率で除した認知理解率(認知ベース理解率)と、認知率との関係を可視化した。
分析では、認知率と認知理解率の75%四分位数を点線で表示した。

75%四分位数を超えるスコアは、全体の75%以上に位置する高い水準を示す指標として用いた。右上の象限は、認知率と認知理解率の双方で高く、社会に広く浸透し、その内容もよく理解されているキーワードとなる。

右上の象限をみると、「SDGs」(認知率73.7%、認知理解率64.7%)、「フードロス」(51.1%、83.9%)、「再生可能エネルギー」(48.6%、66.9%)、「健康寿命」(43.0%、78%)、「ヤングケアラー」(42.9%、85.5%)、「コンプライアンス(法令順守)」(38.0%、76.2%)、「LGBTQ+」(33.0%、79.5%)の7語にとどまった。

これらのキーワードは日常生活、ニュース、教育現場などで広く取り上げられているため、社会全体への浸透と理解が進んでいると考えられる。

一方、右下の象限は、認知率が高く社会に浸透しつつあるものの、内容の理解に課題が残るキーワード群といえる。
該当するキーワードは、「サステナビリティ」(41.1%、52.7%)、「カーボンニュートラル」(42.7%、49.2%)、「ダイバーシティ」(34.9%、47%)、「地方創生」(32.2%、53.2%)の4ワードである。
これらは社会に着実に浸透している一方で、理解するために専門的知識が必要とされたり、概念の抽象度が高いワードも含まれており、社会的理解が十分に進んでいない可能性がある。

一方で、左上の象限は、認知率は高くないものの、一部で深く理解されているキーワード群である。「児童労働・強制労働」(26.6%、72.8%)、「マイクロプラスチック」(26%、74.4%)、「生物多様性」(22.7%、64.4%)、「ワーケーション」(20.9%、64.4%)、「3R/4R」(19.2%、79.3%)の5ワードが該当する。

生物多様性については、本調査の実施後の10月から生物多様性条約第16回締約国会議(CBD-COP16)が開催されている。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)や、欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)など、株主・投資家向けのサステナビリティに関する情報開示ルール対応がビジネストピックになっている。そして今後は、株主や投資家のみならず、一般市民や消費者に対する情報提供と理解の促進に向けた取り組みが期待されるキーワードでもある。

なお、分析に四分位数を採用しているため、認知率と認知理解率の両方が高いとはいえない左下の象限に該当するキーワードが必然的に多い。
消費の視点でみると「エシカル消費(倫理的消費)」(認知率:16.0%、認知理解率43.1%)が他のワードと比べても低く留まっており、「責任ある消費」の主要なキーワードとして考えると物足りない結果である。

ESD(持続可能な開発のための教育)や、消費者への社会啓発など、サステナブル・マーケティングの観点からも、より一層の社会浸透と理解の促進が求められる結果である。