日中関係の緊迫化が続く中、日本政府は中国へのレアアース(希土類)依存度を下げるための国家プロジェクトを加速させている。資源開発を目的とした世界初の海底レアアース採掘という莫大なコストが想定されるプロジェクトだが政府は経済安全保障を重視し、採算を度外視する覚悟で取り組んでいる。

プロジェクトは内閣府が主導しており、小笠原諸島の南鳥島付近からレアアース泥を採掘し、精錬・精製する計画だ。日本の地球深部探査船がこのほど同島付近の海域で約6000メートルの海底からレアアースが含まれる泥の回収に成功した。

尾崎正直官房副長官が2日明らかにした。内閣府の資料によれば、レアアース泥の本格的な引き上げと製錬の実証試験を2027年2月にも開始する予定だ。

「これは、経済安全保障の問題だ」と、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムで海洋安全保障プラットフォームの構築プロジェクトに携わる石井正一プログラムディレクターは言う。「経済安全保障上、最低限のサプライチェーンを確保する」ことが国家の使命だと話す。

スマートフォンや電気自動車、戦闘機などに使われるレアアースは、政治対立の影響を受けやすい。レアアースの埋蔵量が多く、精錬能力で強みを持つ中国は、昨年の米中貿易摩擦の中でも重要な交渉カードとして利用した。最近では、中国が軍事用途向け製品に使われる物品の対日輸出を禁止し、両国間の外交的緊張が一段と高まる事態となっている。

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Getty Images

この取り組みについて、米ボイシ州立大学(アイダホ州)のデービッド・アブラハム客員教授は、「中国がレアアース輸出に懸念を示すたびに、何年かおきに浮上してくるようだ」と述べた。「暗く深海の何マイルも下、巨大な水圧がかかる環境で海底の泥を吸い上げるという作業は、技術的に実現可能だとしても、巨額の運用コストを伴い、継続的な政府支援が必要になる特徴がある」とも指摘した。

ただ、内閣府の石井氏にとってはそこは論点ではない。海底採鉱の商用化の可能性について問われると、石井氏はこう反論する。「産業化や商業化などはどうでもいい。どれほど価格が高くても、モノが必要。自動車の製造ラインが止まったらどうするのか」。

1日350トン

レアアースの確保は、日本にとって長年の課題だ。フランスにおける製錬・分離施設への投資から、オーストラリアのレアアース企業ライナス・レア・アースへの長期的な資金支援に至るまで、日本は代替供給源の確保に巨額の資金を投じてきた。だが、日本は依然としてレアアースの約7割を中国から輸入している。

海底採掘を行ってもこの問題がすぐに解決するわけではない。たとえ試験によって有望な資源が確認されたとしても、開発事業者にとってコストと物流は大きな課題となる。広範な探査が行われてきたにもかかわらず、海底から金属を大規模に商業採掘した例はこれまで存在しない。

「一定の試験はすでに行っているだろうが、海底から取り出したレアアース泥の中からどのような構成のレアアースが見つかるか、本格的に出してみるまで分からない」。日本エネルギー経済研究所の佐々木忠則研究理事はこう話す。「その後の工程は、その構成によって変わってくる」という。

内閣府が進めるプロジェクトは、排他的経済水域(EEZ)内部で進められており、1日に約350トンのレアアース泥を水深5-6キロメートルの地点から海上へ引き上げる計画だ。

日本は1970年代後半、コバルト供給の世界的混乱を受けて海洋での鉱物探査を始めた複数の国の1つだ。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、2020年に海底のコバルト豊富クラストの掘削試験に成功している。内閣府が主導する現在のレアアース計画は14年に始まり、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の探査船が今年1月、静岡県内の港から出航していた。

慎重な見方も

石井氏は、米政府が米MPマテリアルズに4億ドル(約620 億円)を投じた事例を引き合いに、こう主張する。「これのどこに経済合理性があるのか。軍事上の安全保障としてサプライチェーンを確保することを米国がやっている。それを見ようとせずに商業化を懸念する声があるが、それは中国の言い分と同じだ」

一方、市場関係者の見方は複雑だ。「この非在来型の鉱床試験や開発を進めようとしている今、追い風になっている」と、調査会社アダマス・インテリジェンスのジェームズ・テクネはいう。しかし、将来的なレアアース供給源としての深海採掘全般については慎重な姿勢を崩さない。「うまくいっても、ニッチな供給源として登場する程度だろう」

尾崎官房副長官は2日の会見で、レアアース泥の回収にひとまず成功したことについて「大変うれしいことだと思っている」とコメント。今後、超えるべきハードルはあるとしつつ「経済安全保障や総合的な海洋開発の観点からも意義のある成果」だとし、「同志国と連携した鉱山開発、精錬事業への出資や助成金支援などによる供給源の多角化など一連の取り組みを進めていきたい」と述べた。

--取材協力:広川高史.

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